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Written by DMN事務局
on 8月 05, 2021

2010年にグンター パウリ氏が著書『The Blue Economy』を発表して以来、持続可能な21世紀の経済を実現するコンセプトとして世界の注目を集めてきた「ブルーエコノミー」。いま社会全体がアフターコロナのあるべき世界を模索する中、「ブルーエコノミー」は、真に持続可能なビジネスを構築する上で避けることのできない、重要な考え方を私たちに与えてくれます。

DMNでは、2010年11月にグンター パウリ氏ご本人をゲストにお迎えして、「ブルーエコノミー」という概念と、世界の先駆的なケースを紹介していただくDMNスペシャルセミナーを開催しました。

 

「どのように革新し、富を作り出し、雇用を生み出すのかは自然そのものが教えてくれる。持続可能性は、グリーンに特化した建物や、廃棄に対するリサイクルプログラムなどでは、到底たどりつくことはできない。私たち人間が、経済システムを生態系(エコシステム)の機能と進化に基づいてデザインするときに、はじめて持続可能性に到達する。」と、パウリ氏は説きます。「ブルーはグリーンを超える。なぜならブルービジネスモデルは富や資本に頼らなくても実現できるし、自然の資源に頼ることもない。代わりに、自然の知恵を通してその過程が築かれるのだ。」

 

この概念を、実現するのは困難な理想主義であると考えるのは、旧来の固定概念にとらわれた見方にすぎないことが、「ブルーエコノミー」の萌芽と成長を示す多様なケースを知れば知るほど、わかってくるでしょう。

「ブルーエコノミー」実現するためのさまざまなケースをつぶさに見ながら、グンター・パウリ氏の熱い想いをぜひ間近に感じていただきたく、このDMNスペシャルセミナーを2回にわたってレポートいたします。環境と経済、テクノロジーと生命活動、デザインと生態系などをバランスさせる21世紀的センスを磨いていただく有意義な機会としてぜひお役立てください。

 

 

グンター・パウリ氏が語る《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション

【前編】

 

自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル

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2010年11月8日開催/於:六本木アカデミーヒルズ49

 

グンター・パウリ氏が語る

《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション

自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル

グンター・パウリ氏The Global ZERI Network創立者・代表者

 

Part 1 ブルーエコノミーとは

 

ブルーエコノミーとは

 本日は、ブルーエコノミーについてお話しします。ブルーエコノミーは、成長、幸福、社会資本に関する事柄です。世界のニーズに応えるためには経済を成長させる必要があります。幸福感を醸成できない成長は、成長とは呼べません。我々がすべきことは、自分だけがリッチになることではなく、社会資本の充実を進めることです。それによってコミュニティ、地域社会、国などが恩恵を享受できるようにすべきです。

 その際、新しい起業家精神が必要になります。MBAなどは必要ありません。私自身も起業家で、エコファクトリーである「ECOVER(エコベール)」を設立しました。屋根には芝生があり、すべて木造の工場です。1992年にバイオディーゼルを使っていました。社員は自転車通勤しています。ある日、イタリアのテレビ局が会社に取材に来たのですが「こんな場所で自転車通勤しているわけがない」と信じませんでした。朝6時半に、テレビのクルーたちは、物影に隠れて待ち伏せしました。雨の日だったのですが、皆、自転車で通勤していました。テレビクルーが「なぜ、自転車で通勤しているのか」と従業員に尋ねると「お金が出るから」という回答が返ってきました。従業員にメリットを提供すれば、それに応えてくれるわけです。

 

 

生産工程全体の見直し

 私は、エコベールという洗剤を作り、有名メーカーと競合するようなビジネスモデルを作りあげていますが、広告は出していません。エコベールは、市場にあるスタンダードな製品よりも1000倍ほど生物分解性の高いものです。ところが、1993年にインドネシアに行ったところ、私たちの材料供給者が熱帯雨林を伐採している事実を目にしました。オラウータンの棲息地域を破壊しているのです。エコベールによってヨーロッパの河をきれいにしたつもりでしたがその代わりにインドネシアの生物の棲息地域を破壊していました。そこで、ビジネスモデルを変更することにしました。

 

 

持続可能性

 ゼロエミッションが、日本でもスタンダードな考え方になってきていると思います。現在、ゼロエミッションの原則が、ブルーエコノミーという形でリブランディングされているのです。これはすべて「持続可能性」という言葉につきます。持続可能性は、すべての人類の基本的ニーズに応える能力とも言えます。人類だけではなく、それ以外に少なくとも1億の種と共存しており、それらの生物の基本的ニーズにも応えていく必要があります。しかしながら、我々は、とても賢すぎるために、誰も必要としないものを生み出します。原子力廃棄物や海に流出する原油などです。

 

 

雇用を生むイノベーション

 私は、グリーンエコノミーといわれる業界に30年前から参画しています。残念ながらグリーンエコノミーは補助金、税金に依拠しています。太陽光発電は、人類が月面着陸するために50年前に考えられたイノベーションです。それから、50年経過していますが、市場競争力があるとは言えません。

 グリーンエコノミーの世界では商品はより高価になります。つまり、グリーン商品が補助金や税金や消費者の財布に頼っていれば、それが主流になることはありません。私がブルーエコノミーで提唱しているのは、よりよいイノベーションをすることです。イノベーションによって、より多くのキャッシュを生み出せます。それで多くの雇用を生み出し、社会資本を生み出します。そのキーポイントは起業家を刺激することです。このようなことをブルーエコノミーと呼んでいます。宇宙からの地球は青いですし、空も海も青いのです。

 

 

重力というエネルギー

 質問です。無料で入る、最も存在するエネルギー資源は何でしょうか。太陽ですか。間違いです。重力です。どうして、重力のことは忘れてしまうのでしょう。太陽は一日の半分しか出ていませんが、重力はいつも働いています。例外はありません。重力をエネルギー資源に使うという戦略的イニシアティブが必要だと思います。

 

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持続不可能な消費をやめる

 今年1年間で、清涼飲料水など3000億本のボトルが廃棄物になります。本当は600年先まで使えるボトルです。キャップは2000年先まで使えます。それだけの耐用年数があるものを、すぐに捨ててしまうのはおかしいでしょう。もっとよい使い方ができるはずです。

 カミソリは男性も女性も使いますが、そのおかげで年間10万トンのチタニウムを廃棄しています。きれいな肌をキープするためですが、あまり賢い方法とは言えません。

 今年廃棄されるバッテリーの数は400億個で、その25%が煙を検出する火災報知器に使用されています。このビルにも多くの火災報知器がありますが、半年に1回捨てられています。使い切っているかどうかは関係なく交換されています。

 

 

コーヒーが気候変動の原因

 コーヒーは、我々が知る限り、もっとも汚染率の高いものです。というのも、コーヒー豆の0.2%を利用して、他の部分は廃棄しているからです。廃棄した部分が腐ってメタンガスを出しますから、気候変動の原因となります。コーヒーを飲むことが気候変動につながるとは、誰も思わないでしょうが、そういうつながりを理解していないこと自体が問題です。紅茶を飲むから大丈夫と思わないでください。紅茶の使用率は0.1%で、コーヒーよりも悪いのです。

 ベジタリアンの皆様には動物愛護の点で敬意を表しますが、残念ながら日本で食べているキノコの90%が、オーク材を使うことで作られています。キノコを食べるたびにオーク林を伐採していることになります。我々の消費や生産の仕方が、持続不可能であることを知らないことが問題です。このようなケースはいくらでもあり、何時間でも話せるほどです。

 

 

物理学が道となる

 我々にはイノベーションが必要です。もっとも注力すべきは、物理学の法則に従ったイノベーションです。重力の法則には例外がありません。私がビジネスを進める際には、精緻に予測可能である物理学をベースにします。化学に依拠する場合はケースによります。化学においては触媒を用いるケースが多いのですが、触媒には毒性が強いものが多くあります。生物学においてはすべてが例外です。生物学のすべては進化を続けているからです。たとえば、タツノオトシゴはひとつの例外ですが、それは男性が子供を産むからです。

 ですから、私は物理学をベースにするべきだと思います。私にとってのイノベーションは、複数のキャッシュフローを生み出すものです。新しいものはリスクがあります。リスクを削減するためにも、予測可能であり、より多くのキャッシュを生み出すビジネスモデルでなければなりません。

 

 

コーヒーでキノコを作る

 コーヒー豆は、オーク材と同じような機能を持っています。コーヒー豆からの廃棄物を使って、キノコを供給できます。キノコを栽培した後のコーヒー豆の廃棄物にはカフェインは入っておらず、アミノ酸が豊富になっています。それらは飼料として家畜に与えられます。コーヒー豆はそのまま飼料になりませんから、この方法は有効です。

 これだけでコーヒー豆、キノコ、飼料という3つの収益源を確保できます。気候変動は起きません。これこそがブルーエコノミーのビジネスモデルです。我々は、このビジネスモデルを使って、多くの都市で会社を興しました。これで雇用が生まれます。それほど難しいことではなく、やると決心することが大切です。

 

 

チタンの代わりにシルク

 カミソリに使うチタンの代わりにシルクを使うことができます。シルクをのばしてナノサイズにしますとスティールより固い素材になります。クモが糸を口から回しながら出すのと同じように、シルクを紡ぎ出していくとアミノ酸がない素材になります。そのようなシルクの素材は、すでに外科手術の縫合糸として、また、神経細胞を再生する際に使用されています。

 チタニウム10万トンをシルク10万トンで代用すれば、伐採による乾燥地の荒廃を防ぐことができます。カイコは10万トンのシルクを作る際に多くのフンを出しますから、それで土壌が肥沃になります。カミソリを使うことによって森林化を促すことになるのです。この素材は、チタンの約半分のコストですから、価格競争力があります。

 

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ブラジルにおけるスピルリーナ

 スピルリーナ藻類は、とても体によくて高価なものでしたが、現在、ブラジルではキロあたり0.5ドルで作っています。世界の卸価格はキロ当たり32ドルですが、我々はコストを1/64にしてブラジルで作っています。だから、子供にとても安く配ることができ、その資金をブラジル政府が支出しています。1日に1グラム、スピルリーナを摂取すれば栄養不足から脱出できます。子供は、学校でスピルリーナをもらって帰り、それを使ってお母さんがクッキーを作ります。

 すでに大量のスピルリーナを確保できるようになっており、輸出も考えられましたが、それはしていません。私たちの哲学は、全生物の基本的ニーズに応えることですから、その余剰分でバイオ燃料を作っています。藻から脂質を抜き取ってバイオ燃料を作ることができます。残りは膜部分ですが、それをポリエステルに加工して、化粧品業界で使うバイオケミカル成分としています。それによって余剰分を輸出するよりも、多くのキャッシュを得ることができます。スピルリーナを食糧、燃料、バイオケミカルにすることで、結果的に国内の化粧品業界の競争優位性を高めています。

 

 

ブラジルの博士コース

 ブラジルにはCO2から藻までを研究する、7つの博士コースがあります。その博士コースを修了した1人が、バイオ燃料、ポリエステル、膜の研究をしました。このような博士が、10年後には100人生まれるでしょう。藻類の分野においては、最大規模の頭脳をブラジルが手にするでしょう。そのとき、エタノールと同じようなことが起きます。
 40年前、ブラジルはエタノールと関係ありませんでしたが、現在、エタノールで世界をリードする立場にあります。世界有数の自動車メーカーが、エタノールエンジンについてはブラジル人エンジニアに頼っている状況です。それによってカーボンクレジットを手に入れることもできます。

 

 

<参考ウェブサイト>

ZERI
http://www.zeri.org

●ゼリ・ジャパン(ZERI JAPAN)
https://www.zeri.jp

ブルーエコノミー
https://www.theblueeconomy.org

(文責:DMN/編集部)


 

GUEST PROFILE

グンター・パウリ氏 Gunter Pauli

「ゼロエミッション」の提唱者。The Global ZERI Network創立者・代表者。1956ベルギー生まれ。聖イグナチオ大学経済学部卒業。91年、ゼロエミッションの考え方を導入した石鹸工場をベルギーに建設。その活動が世界の注目を集め、94年には国連大学学長顧問としてゼロエミッション理念の提唱を主導し、研究構想の実現に尽力。94-97年、国連大学(東京)学長顧問。世界経済フォーラムにおいて「21世紀のリーダー」の一人に選出される。

「ブルーエコノミー」はこれまでの活動の成果がすべて結実した壮大にして実現可能性のきわめて高い構想であり、世界各地の研究機関や企業とのネットワークを通じて、バイオミメティックス(生物模倣)などの生態系に学ぶ多様な科学技術/イノベーションのケースをデータベース化して、世界中の新たな起業を導くために献身的な活動を続けている。

 

 

 

 

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