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Written by DMN事務局
on 3月 25, 2022

 

「What is VIABLE?」

全3回/川上典李子さんと一緒に学ぶ「VIABLE DESIGN」ビジネスパースン&クリエーターたちへの指針

 

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2013年1月29日開催/於:ハーマンミラーストア 丸の内

ケーススタディ2

ハーマンミラーの『ギフト・コミッティ』:

企業哲学と社内ボランティアチーム

ゲスト 松崎 勉 氏 ハーマンミラージャパン株式会社代表取締役

東日本大震災後、いち早く被災地支援活動を行なった家具メーカーのハーマンミラー社。石巻市で復興支援活動を始めた建築家やデザイナーを中心とする工房、石巻工房とも連携し、地元の人々が必要とする家具をつくるワークショップのほか、家具会社である同社が持ちうる技術、知識等を「復興に向かう地域に移す」想いでの活動を展開している。その迅速な行動とその後に続く活動は、アメリカ、ハーマンミラー社が20年前から掲げる「Make a difference」のスローガンのもと、世界各地で行なってきた支援活動の実績に基づく。「ギフト・コミッティ」として予算枠を設け、甚大な被害を受けた世界各地に、各国のハーマンミラー社員から結成されたボランティアチームを派遣、力を結集して支援するしくみがあるのだ。手を挙げた社員を選抜して派遣チームを結成するプロセスや活動計画の進め方について、基盤となる同社企業哲学を交えながら紹介。企業がなぜこうした活動を続けているのか、社員に対する成果もあわせて目を向ける。

 

川上典李子さんのコメント

 皆さん、研究会にいらしていただいてありがとうございます。前回、1回目の研究会では、横山いくこさんの講演会を開催しまして、多くの反響をいただきました。ありがとうございます。

 今回、テーマにしている「VIABLE」という言葉は、生存できる、生育できる、存続できる、などポジティブな意味を持っています。辞書を見てみますと、フランスの言葉の「生命力のある」という単語から派生しているようです。また、イギリスの研究者に話を聞きますと、ラテン語の「VIA」、道という意味に語源があるとのことです。また、「VIAVILITY」と名詞で使われた場合は、生存能力、実行可能性という意味になります。

 デザインという活動は、目的に向けて課題を解決していくことでありますが、その過程において「VIABLE」という視点が大きな意味を持ってきております。今回は、「VIABLE DESIGN」を軸に、実践なさっている方にお話しいただいて、そのシーズを探っていきたいと思っております。

 また、「VIABLE」は、海外のデザイン関係者の中では、ここ2~3年、日常会話にでてきている単語です。今の課題に向かうための「VIABLE」な方法とは何であるか、「VIAVILITY」を獲得するためには何が必要か、などという話題が頻繁に出てきます。これは、社会が抱える問題が多岐にわたっており、深刻であることとつながっているようです。今までの方法ではなく、新たな道を意欲的に探っていかなければ、解決できない難しい状況ではないか、ということで、「VIABLE DESIGN」について語られています。

 今回の研究会では、規模の大小を超えたところで、独自な視点をもって活動している方をご紹介しています。1回目の横山いくこさんは、個人として信念をもって「VIABLE DESIGN」について考えながら、それを南アフリカなどで実践されています。また、ハーマンミラーの皆さんは、企業として何をすべきかと考えて「VIABLE DESIGN」を災害の現場において実践されています。それらを参考にして、自分たちが何をすべきかと考えて、さらに応用して次に進めていくことができるかと思います。

 では、本日は、ハーマンミラージャパンの代表取締役の松崎勉さんに「ハーマンミラーのギフト・コミッティ」というテーマでお話ししていただきます。

 

松崎勉氏講演

 

ハーマンミラーについて

 ハーマンミラーの松崎勉です。今日、石巻工房の話題を中心にお話しします。石巻工房は、事業として立ち上がりまして、今年、なんとか会社になりそうです。それと関係して、デザインと事業創出という切り口でもお話ししたいと思っています。あと、ハーマンミラーが何をやってきたのか、という実例もお話しします。

 石巻での活動は、社内的には「プロジェクト・ジャパン」と呼ばれています。これは2011年11月に半月ほど行いました。その活動を支えているハーマンミラーの枠組み、あるいは理念についてもお話しします。

 ハーマンミラーの会社創立は1923年ですが、前身の会社を含めると100年以上になります。現在、社員数は約6,000名。本社は、ミシガン州のジーランドにあり、オランダ系の移民が作った会社です。今もオランダ系の社員が多く、その特徴は、プロテスタントのとても信心深い人たちであることです。日曜日になると必ず教会に行きます。極めて質素でよく働いて、困っている人がいたら助けてあげる、というカルチャーがあります。尚、日本における事業は、50年近くになります。

 

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目的は事業創出

 アクシスの佐野恵子さんを通じて、石巻工房と出会いました。東北大震災で石巻市は、もっとも大きなダメージを受けた自治体です。約4,000名がお亡くなりになり、災害後に1万人以上、人口が減りました。

 私たちは12名で2週間、石巻に滞在しました。家具チーム8名とグラフィックチーム4名という合計12名の構成で、アメリカやイギリスなど各国から参加しました。私たちが掲げたミッションは、問題を解決して事業を起こすこと。私たちがいなくなった後、そこで新しい付加価値が生まれるように、種を育てて事業を作りだす、というような壮大な目標を掲げました。

 最初は、取っかかりが、どこにも見つかりませんでした。アクシスさんと話をしたのは相当後のことでして、手紙を出したりメールを出したり、あるいは物資を運んだり、いろんなことをやって少しずつ見えてきました。それから、問題がたくさん出てきます。欲張って事業化なんてことを考えたものですから、本当にたいへんでした。普通の会社でも難しいのに、津波で洗われた町で事業創出をやるのですから、何か強烈な成功要因がないと成功するはずもありません。これを探すのがとても難しかったのですが、デザインという切り口で、クリエイティブという種を見つけました。

 当初、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの社員からしますと、原発の問題が大きな障害でした。石巻は大丈夫、ということを説明するのに、ずいぶん時間を使いました。

 現地に行ってから場所を借りまして、メンバーは手早く壁などを作ったり、展示ができるスペースを前に設けたりして、事務所の形を整えました。こういうことはお手のものです。木工関連の機械を買いそろえて、木材も大体10トンぐらい、そこに運び込みました。

 

OKAMOCHI TABLEなど

 私たち日本のスタッフが、何度も東北を訪れて問題を探しました。ある仮設住宅で、ボランティアの方々が問題分析をやっていまして、参考にさせてもらいました。

 仮設住宅は、間取りがとても単純で、玄関があって、入るとすぐにキッチンで、そのあと居間があります。仮設住宅に物干し棹をひっかけるところがあるのですが、そこが少し高い場所にあって、段差があるために、高齢者や小柄な方には干すのが難しい。また、赤十字が支援物資を置いていきますが、部屋の中には収納ないので置く場所がない。こういう問題がどんどん出てくるんです。

 あるとき言われた大きな問題が、隣近所が変わってしまってコミュニティーがないこと。コミュニティーをどのように復活するか、という難しい問題がありました。そこで、ハーマンミラーのアイシェ・バーセルというニューヨークのデザイナーが来るというので、彼女に「実はコミュニティーの問題が非常に難しい。コミュニティーをつなぐようなものを考えられるか?」というお題を出したんです。そしたら、すぐにスケッチを送ってきました。隣近所と行き来するときのテーブルのような道具はどうだろうか、というアイデアです。持ち運んで「一杯どうか?」みたいな感じのもので、最終的にできあがったのは“OKAMOCHI TABLE(岡持テーブル)”です。

 これは優れものでして、置くとフラットな面になって、持ち運ぶときには取手部分を引き出す、という便利なものです。また、先ほどの段差の問題がありましたので、その段差を解消するENDAI(縁台)を作ったところ、隣の人が面白がって来るようになりました。プロジェクトでは、このENDAIを作って石巻にたくさん届けました。

●OKAMOCHI TABLE

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参加型ワークショップ

 あとは参加型ワークショップを開催しました。「とにかく参加してください、ネジ1本でも打ってください」といって参加してもらう。来てくださっても何もしない方もいるので、「何もしないとダメなんです。手伝ってください」と言って、何か押さえてもらったりすると、「じゃあどうぞ」と言って何か差し上げます。

 子どもなんかは教えると、どんどん覚えていって、熱中してうまくなっていきます。自分の分が終わったら、次の分も作ったりします。

 それから、材木を事前に切っておいて、それを仮設住宅に持って行って、希望される方々と一緒にワークショップをやりました。もちろん無料です。ワークショップをやって、その方々にできたものを持って帰っていただく。そういうことをやりました。

 

技術を伝える

 当然のことながら、復興は数年単位という時間がかかるので、子どもや若者に私たちが持っている技術を少しでも伝えようということで、授業を行いました。うちの家具職人が、石巻工業高校の生徒さんに家具の作り方・・・早く正確に大量に家具を作る技術を教えました。治具という特別な装備を使った、誰もが正確に作れる方法です。石巻工業高校の生徒さんたちとはルーティーンでワークショップをやっており、いまだに出入りしています。何か部室のような状態になっていて楽しくやっています。

 児童館みたいなところで、子どもたちとワークショップをしました。そうすることで、世代を超えて何か残っていくものがある、という希望を持って開催しました。

 

商品として残す

 石巻工房の活動は、必ず商品として残すことを目指しています。先ほどのOKAMOCHI TABLEも商品になっています。家具以外のクラフトは、このハーマンミラーの店でも販売していまして、後ろにあるポーチみたいなものもそうです。そういったものは石巻工房の手芸部の方々が作っています。

 グラフィックチームの4名は、石巻西高校と石巻好文館高校で生徒たちに授業をしていました。スティーブ・フリックホルムなどのデザイナーが教えまして、教えるだけではなく、その過程でやはり商品にします。これは去年のカレンダーですが、海をテーマにした美しいものです。

 

憩いの復興バー

 工房の生活は、朝のブリーフィングから始まります。誰が何を何台作って、どこに持って行く、とかなり綿密なスケジュールがあります。アメリカ人の生産管理システムの責任者がいましたので、彼が工房の工程管理を指揮していました。

 最初は「2週間は長いので9時-5時でやろう」と言っていたのですが、ワークショップを重ねていくうちに「もう30分やれば、もっと作れるよね」と時間がのびていって、朝7時-夜7時半と延々とやるようになって、とにかく昼間はただひたすら働いていました。ほぼノンストップで、お昼の休憩を取るぐらいです。

 さすがにこれでは身体がもたない、ということになりまして、復興バーに行くようになりました。復興バーは、間口が一間もないお店で、ウナギの寝床のようになっています。工房からほど近くにありまして、壁に大穴があいていたので、それを直したりしました。私は、ずっと店の鍵を持って、中で料理もしていました。日本人も外国人も入り混じって飲んでいました11月だったのでサンクスギビングの日には、アメリカ人のために地元の料亭の若旦那が七面鳥を焼いてくれました。

 

ギフト・コミッティ

 私も一応、東京でハーマンミラーの日本法人の責任者をやっていますので、その社長がなんで、こんな長期間不在にしていられるのか、と思われるかもしれません。その背景には会社の理念があり、枠組みがあります。

 まず、枠組みとして、ギフト・コミッティという制度があって、ここが予算を握っています。有志の社員7名が担当しているのですが、私はどこの誰かは知りません。知っていると直接アプローチしたくなるので知らされていないのです。

 たとえば、日本で大変な災害があったので、私がプロジェクトを立ち上げて、予算と計画を記入した申請書を出します。それが審査を通ると、予算を付けられ、全世界6000人の社員にアナウンスされます。そのような人材募集がしばしば来ます。マックスで12名が半月間、参加できる、という決まりがあります。

 有給休暇を使って参加するので、有給休暇が残っていないと参加できません。それでも参加したい場合は、同僚たちに有給休暇を寄付してもらうことができます。同僚たちが、半日とか1日ごと、参加者に有給休暇を寄付するわけです。

 交通費は自腹が基本なので、マイレージを寄付するケースもあります。滞在費も含めて、若干の補助が出ます。帰って来ると、自分の職場で報告会をします。それによって、寄付したことがどのように役立ったのかがわかります。

 これは子会社にも適用されていて、買収したばかりの会社でも、手をあげてかまいません。ただし、非常に厳格な面接が3次まであります。

 人材募集は、こういう人が12名欲しい、と書いたジョブ・ディスクリプションによって行われます。高いレベルの技術が必要で、技術だけではなく相当な根性も求められます。たいていは12名のうち1名は経験者が入ります。今回のプロジェクト・ジャパンのときには、イギリス人のベテラン社員が経験者でした。彼は、スマトラ島沖地震の津波のときに、インドに行って学校を作った経験があります。何もないところに学校を作ったというタフな経験があるので、ちょっとやそっとのことでは驚かないのですが、日本の津波の被害にはとても驚いていました。

 

ハイチなどのケース

 2011年は、私が申請した年ですが、2012年もプロジェクトがありまして、それはプロジェクト・ハイチでした。2010年にハイチで大地震があったので、その年にプロジェクトが行われました。その被害が甚大なので、2012年にもハイチでプロジェクトが行われました。まだ、がれきの撤去が続いており、2年以上たっても7割の方が失業という大変な状態です。日本のように仮設住宅は支給されていません。

 2回目のプロジェクト・ハイチには、石巻のプロジェクト・ジャパンに参加したCADデザイナーのアメリカ人が参加したので、その話を聞きました。とても優秀な人間で、ウィスコンシンの子会社の社員です。このときのテーマは、コレラ対策。コレラが蔓延していまして、47万人の感染者、6,000人の死者という状態です。病院がまだなく、テントの治療センターで療養しています。

 コレラですのでおなかを壊しています。プロジェクトではニーズを分析して、患者のベッドを作ることになりました。ベッドのお尻の辺りに穴が開いていて、その下にバケツを置きます。そこに排泄して衛生状態を保つというものです。そのような患者用ベッドをデザインするのですが、その要件は、軽量、丈夫、組み立てやすい、収納しやすい、というものです。要件をすべて満たすものを現地に行って、10日間で問題を把握して作る。それを現地の人たちが自分たちで作れるようにするプロジェクトでした。耐久性であるとか、現地で手に入る素材であるとか、そういうことを考えながら作ったそうです。

 少し前になりますが、アメリカのハリケーンカトリーナの件でもプロジェクトがありまして、このときは家を1軒作りました。そのようにいろいろなことをやっています。

 

for a better world

 これらのプロジェクトの根本にあるのは「for a better world」という概念。より良い世界を作るために我々はここにいる、ということ。日頃、いいものをできるだけ作って、それを買っていただいてファンになっていただくとか、長く使っていただく、というのが基本です。その源流は正確にはわからないんですが、宗教的な理由もあると思います。創業者であるD.J.デブリーは、60年ぐらい前にこんなことを言っています。

「ハーマンミラーは環境の良き番人でなければならない」

 この言葉をかたくなに守って、そのときできる最大の努力をする、という会社の理念があるわけです。環境を守る、というのは、次の世代の分を搾取しないことだと思います。石巻、インド、ハイチなどのプロジェクトは、そのようなことが背景にあります。

 石巻工房は、戦略的に考えて事業展開をしています。その展開の一部を、私たちがお手伝いしたという感じです。それでは、ここで石巻工房を紹介する動画を6分ほど見ていただきます。

<石巻工房の紹介動画概要> 

 甚大な被害を受けた石巻市の中心部で、市民たちの心の傷をいやすため、野外映画祭が開かれました。その映画を見るために作られたのが、このベンチでした。業者まかせにするのではなく、自らの手で、より早く復興を進めるために、必要な手段として生まれたのが石巻工房です。

 石巻は、震災時、2メートル以上の津波の被害を受けて、町として機能を完全に失ってしまいました。この町に石巻工房は作られたのですが、震災前は文房具屋さんだったそうです。ここで作るベンチやスツールは、日本全国で話題になっています。

 工房長の千葉さんは、震災前、市内で寿司屋を営んでいましたが、津波で店は被災し、仕事を失ってしまいました。千葉さんがここで働くようになったきっかけは、東京で建築デザイナーをしている、芦沢啓治さんとの出会いでした。芦沢さんは現在、石巻工房の代表で、企画デザインなどを担当しています。芦沢さんは震災前にも仕事で石巻へ来ていました。震災直後、知人の安否確認のため、すぐに石巻へやって来たそうです。

 そのとき、芦沢さんの頭に浮かんだ言葉が、DIY。この言葉は第二次世界大戦の頃、破壊された町を業者に頼らず自分たちの手で復興しようと、ロンドンで国民運動が起きたときに広まったスローガンです。

 芦沢さんは、DIYの言葉を掲げ、石巻市民たちと、被災した建物のリノベーションを始めました。そんなとき、石巻市民にいやしと元気を与えたいと、ある団体が野外映画館を企画したのです。

「野外映画館をやろうとすると、座るものがない。ベンチを作ろう、と思ったんです」(芦沢)

 そのときに生まれたのが、デザイン性と耐久性を兼ね備えた温かみのあるベンチでした。使われている素材はレッドシダー。野外用に使われる丈夫な木を使用しています。石巻市民のために作られた、このベンチが、あることをきっかけに、口コミで話題になっていったのです。

 石巻での支援を考えていた、アメリカの家具会社ハーマンミラーが、石巻を訪れたときのことです。現地を訪れた彼らは、石巻工房が作るベンチに注目したのです。ハーマンミラーは、石巻工房を支援して、そのベンチを作り、仮設住宅などに無償で送ったのです。その数は475台。

 その後、石巻工房の作るベンチやスツールは、被災地以外でも話題になりました。譲ってほしい、売ってほしい、という人たちの声が届くようになったのです。

 その声に応え、昨年10月から販売を開始。今年6月までに約500台という商品が全国に出回っています。現在は新たな商品作りにも取り組んでいます。

 

デザインで差別化

 私は、最近では石巻工房の大ファンになっていまして、ちょっと危険な状態に入っていますが、冷静な頭で石巻工房の事業をどう作っていくか、あるいはどう作られているかということをお話ししたいと思います。

 ターゲットは、外貨です。ここで言う外貨は、東京や大阪のお金のこと。法人、個人も含めて、都市にターゲットを絞っています。

 ターゲットの次は差別化でポジショニングですが、ここでデザインが出てきます。デザインによる差別化をやります。本当に皆が欲しがるものを作るには、クリエイティブが必要で、それはかなり高いレベルのクリエイティブです。この「AAスツール」というのはAの字に似せたスツールですが、これはトラフという素晴らしいデザインチームが作りました。

 その他にも、アイシェ・バーセルというハーマンミラーのデザイナーがいます。石巻工房の代表で建築家の芦沢さんも、たくさんの製品をデザインして工房で販売をしています。これはかなり徹底的な差別化要因だと私は思っていまして、これがどんどん積み重なっています。

 私たちが行ったのは11月ですが、その年末ぐらいから、数人のデザイナーがクリエイティビティを発揮しながらプロダクトを作っています。そのためには場所が必要なのですが、そういう意味で、石巻工房という場所は、理想的なR&Dの場所でもあり工場でもあります。

●AA STOOL

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市民工房として

 もう1つ差別化要因があります。石巻工房は市民工房としての側面を持っています。ノンプロフィットの団体でして、石巻の子どもたち、あるいは町の方々と一緒にワークショップをやります。今でも続けており、このようなワークショップがあるのが大切なことだと思っています。

 お金もうけではない部分を持っていることは、とても大きな価値ではないかと思います。今、子どもたちの遊び場になっていて、高校生もかなり出入りしています。そこでは、子どもたちがいい表情をして大人っぽく見えたり、大人たちが子どものようになったりと不思議な現象があります。このような気軽に出入りできて、自分で何か作れたり、友だちと会えたりできる場は貴重ではないかと思います。

 

今後必要な力

 災害が起きて日にちが経過していくと、だんだんボランティアが減っていきます。でも、一方で、その町の未来を作るプロボノ・・・プロボノというのは、利益を目的としない仕事という意味だそうですが・・・プロボノに関われるという大変稀有な目的意識が持てます。それは石巻の人でなくても構いません。ニューヨークのデザイナーでも、私のような別に取り立ててスキルのない人間でもいい。

 現在、災害当初とは、必要な機能が違ってきています。義援金という形のお金も必ずしも最適なお金ではなくなっています。同じお金なら、出資金とか使途の明確な寄付金などが必要ではないのか、と考えるようになりました。

 あるいはクリエイティブによる支援です。これがとても重要で、クリエイティブの資格を持っている人は、本当に未来が作れるんです。ただ、この東京で未来を作ろうと思ったら結構難しいと思います。東京には、クリエイティブなものが、ひしめき合っていて、物があふれかえっています。そこで、何か作っても人の目にはとまりません。それと比較すると、石巻はないない尽くしなので、いいものを作れば、未来を作れるかもしれません。

 あるいはビジネス・クリエイティブ・・・事業をプロデュースする力を持っている方も、どんどん来てください。東京にはないチャンスが待っています。まだ悲しい思いをしておられる方もいらっしゃいますが、一方では、やはり立ち上がっていくことも必要です。そういうものを支援しようとする人には、大きな目的意識を感じてもらえるでしょう。

 あとは、そろそろプロフェッショナル・サービスが必要になっています。弁護士、会計士というプロフェッショナルというのは東京にほとんどいますが、こういう方はかなり大きな戦力になります。ひとえに、ここに集まる人たちの力次第かなと思っています。工房もまだこれからだと私は思っていて、これに気が付いてから、とても楽観的になれるようになりました。

 その後、石巻工房などの活動が認められまして、ISHINOMAKI 2.0/石巻VOICE/石巻工房がグッドデザイン賞 BEST100に入賞しました。製品ではなく、それぞれの活動自体に対する賞であります。非常に名誉なことで、素晴らしいと思います。その結果が出始めていて、たとえば、ヤフーの本社に石巻工房のカラフルな1人掛け、2人掛けの工房ソファが大量に納入されています。六本木にあるクリエイティブの会社でも、石巻工房の長椅子のソファを使っています。こういう仕事が1件入ると、相当な金額で売上が上がりますので、千葉工房長も忙しいと聞いています。

 

支援の意味合い

 このような支援に関する経営的な意味合いについて、私なりに考えてみました。もちろん、ハーマンミラーの「for a better world」という経営理念に沿ったことをすること自体に意味があります。

 それから、支援に行く人も送り出す人も、この会社に所属していることに誇りを持つことができますし、会社への帰属心というものを養うことになります自分の有給休暇を「じゃあ持ってって」と行く人に渡す。支援に行った人は、大変な苦労をして、ヘトヘトになって帰って、皆に「こんなだったよ」と話をします。そうすると、この会社は特別だという誇りとか帰属心につながります。

 3番目は、私の体験で、日常の仕事での自信につながることがありました。あるとき、仕事の上で「大変だ!」ということが何回も続いて、自信を失ったことがありました。そんなときに、「松崎さん、公の場で石巻の話をしてください」と言われたんです。「今忙しいし、それどころじゃない」と思ったのですが、石巻の話をしてみました。そうすると、自信を取り戻したんです。

 何が起こったか、というと、「もう駄目、オレなんて」と思っていたところが、「石巻であれだけのことをやったんだから、まだまだ自分には価値はあるし、きっとなんとかなるんじゃないか」と思ったんです。

 これは不思議な体験で、2番目とはちょっと違う次元のものなんです。1つ大きな自信、つまり自分を否定しなくてすむ材料が1個増えた。しかも、それが仕事と切り離されたところで生まれたということなんです。

 もしかすると今の時代というのは、割とこういうことをやってみようと思う会社があるのではないでしょうか。関心のある方は、私たちの例を使っていただいてかまわないので、ぜひトライしてください。

後編に続く...

 

<参考URL>

●石巻工房
http://ishinomaki-lab.org/

●石巻工房ネットショップ
http://store.shopping.yahoo.co.jp/ishinomakilab/index.html

(文責:DMN/編集部)


 

GUEST PROFILE

川上典李子さん
デザイン誌「AXIS」編集部を経て1994年に独立、デザイン分野を中心に取材・執筆を行っています。2007年より、21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターとして、3名のディレクターである三宅一生さん、佐藤 卓さん、深澤直人さんとデザイン展覧会の企画に関わっています。
各国での展覧会の企画にも参加しており、一例に「Japanese Design Today 100」(巡回中)やパリ 装飾美術館での「Japon - Japonismes, objets inspirés 1867 - 2018」のキュレーション、「London Design Biennale 2016」日本公式展示(鈴木康広氏個展)キュレトリルアドバイザー。
グッドデザイン賞の審査員をはじめ、デザイン、アート、クラフトに関するコンペティションの審査にも多数参加しています。

松崎 勉氏
ハーマンミラージャパン株式会社代表取締役
1965年生まれ。東京大学経済学部卒業、エール大学でMBAを取得。JR東海、マッキンゼー&カンパニーを経て、国内外のグラフィックアーツ関連企業、ITベンチャーの代表取締役などを歴任。2007年、家具メーカー、ハーマンミラー社の日本法人、ハーマンミラージャパン株式会社の代表取締役に就任。

 

 

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