このコラムはHealthcareを制度や今後のITに絡ませて書く予定ですが、その前に、もう少し全体を見渡すために前回同様、街を俯瞰的に見ますので、ご了承ください。
ニュータウンに限らず街を見渡してみると、ランニングをしている人をたくさん見かけるようになりました。若い人もいれば、年配の人もいます。また、郊外であれば、歩く会で多くの人がリュックを担いで歩いておられます。駅前にはフィットネスクラブがあります。私は鎌倉近辺に住んでいて、天気の良い日は鎌倉の山を登りますが、こちらにも多くのハイカーが汗をかきながら自然を満喫されています。
フィットネス経営情報誌を発行している(株)クラブビジネスジャパンの資料によると、2010年に3,474施設だったのが、2015年には4,661施設と増えています。また60歳以上の会員数が増えているのも特徴的です。実際に、私もあるフィットネスクラブに入っていますが、昼間はほとんどがシニア世代です。
また、市民マラソンの規模も非常に多くなっていて、全国で2,000以上のイベントが行われていて、飽和状態になっているそうです。走るのではなく、歩くを主眼に置いたウォーキングイベントもほぼ毎日、日本のどこかで行われています。私の友人はヨガを楽しんでおり、室内以外にも公園や浜辺でやはり多くのヨガファンが集っています。おそらくこれほど健康のために運動をしている人が多いのは過去になかったのではないかと思います。特に、ランニングは東京マラソンが2007年に始まってから、「観るスポーツ」ではなく、「自分で行うスポーツ」に変化していき、これが他のスポーツにも広まっている感があります。
一方、高齢者を送迎するデイサービスの車も非常に多く見かけるようになりました。その中で、要介護度が低い状態でなるべく自身の身体機能を維持するためにリハビリテーションを行っています。このリハビリテーションには理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの資格を持った方々が、サポートをしています。理学療法士は、病気や事故などで身体に障害や不自由さを抱える人、また高齢により身体機能の衰えた人などに対して、医師の指示の下でリハビリテーションを行い、運動能力の回復を援助する仕事です。作業療法士は、病気やケガなどが原因で身体に障害や不自由さを抱える人に対して、医師の指示の下でリハビリテーションを行い、日常生活に必要な能力を高める訓練や指導をする仕事です。そして、言語聴覚士は言語障害がおこってコミュニケーションが取りにくい人などをサポートする仕事です。つまり、リハビリテーションには、歩く、走る以外に箸や茶碗を持つ、コミュニケーションが取れるように発声の訓練をするなど、様々な筋肉を元に戻すようなものがあるのが特徴です。
さて、視点を変えて、医療や介護という側面から見てみましょう。医療機関は、病気や怪我を負った人が訪れる場所です。介護事業所は介護を必要とする人が集まる場所です。実は、これはサービス提供者側から見た区分です。医師は受診に訪れた患者と初めて会って、検査をして患者のバイタル状態を知ります。そして治療を行い、病気が完治すればそれでこの患者との接点は無くなります。介護では、要介護状態を自治体の職員が面談して認定調査票を書き込んだ後に認定審査会で要介護度が決まって介護サービスが始まります。介護が功を奏して、自立できる状態に戻れる人もいれば、そのまま要介護度が上がっていき、亡くなられることもあります。どちらにせよ、医療機関も介護事業所もこれから必要とされるサービスであることは間違いありません。
では、これほど私たちが健康に気を遣っていても、病気になるときは病気になるし、介護も自分ではまだまだだと思っていても介護が必要となるのはどうしてでしょう。病気や介護に必要になった時にはプロフェッショナルなサービス提供者がいて、必要な指導や処置、サポートをしてくれます。しかし、健康な時は、身体に対するプロフェッショナルな提供者はいません。それは、私たちが生まれてから死ぬまで連続した一個体であり、バイタルデータも連続しているのに、サービス提供という側面から見ると、分断されてしまうことにあります。
私たちは、学校の健康診断、会社に入っても健康診断と頻繁に体の状態をチェックしています。そして個人でも体重計や血圧計などで体のチェックをしています、が、これらのデータを的確に診断、サポートする提供者が存在しないことにあります。もう一度述べますと、病気になって医療機関にかからない限り医師などのプロフェッショナルな助言、指導を受けることができないのです。では、みなさんどうしているかというと、ネットで健康情報を見て、素人判断するしかないわけです。ここに付け込んだのが一連のキュレーションサイトであると言っても良いでしょう。
最近のニュースでfitbitやjawboneなどのウェアラブルデバイスがパーソナルな提供から医師などの医療機関での使用を目指していると発表しています。これは先ほど述べてきた分断を連続したものにしようという動きです。健康な時からウェアラブルデバイスを使い、その時々で医師がサポートしていくという流れです。しかもその先には病院の機能さえも変えるイノベーションが起こると言われています。マウント・サイナイ・アイカーン医科大学の理事、エリック・シャド氏は、uberが自身が車を持たないビジネスモデルであることから、未来には現在の病院というものが無くなると予測しています。
私たちが医療ビジネスを考える場合、現在の提供者側からロジックで考えると非常に狭いビジネスモデルになるとともに、この先ビジネスモデルそのものが成り立たなくなる可能性があります。街を見渡し、私たちが生まれてから死ぬまでどのような生き方をしているか、私たち自身からビジネスモデルを考える必要があります。すでに、壁は取り除かれています。
業界の常識や慣習を受け入れるか、疑問を持って捉えるかで、取り組もうとする分断の大きさが変わってきます。業界の常識や慣習に従う限り、大きな分断=大きなイノベーションの機会を自分事として捉えることができません。大きな分断に取り組むには、業界の常識や慣習の枠を外し、自社が想定している製品やサービスの範囲を超えて、顧客が本当に求めていることに沿って体験全体を理解する必要があります。顧客のゴールをどのようなレベルで捉えるかが大きなポイントになってきます。
別のアプローチとして、いまは離れている業界と業界を重ねてみて、その重なりの中に顧客が本当に求めていることがないだろうか、という視点で強制的に発想するコンバージェンスマップも効果的です。(mct/白根)

- Hiroshi Yamazaki山崎 博史
株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表
国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。
twitter @gennesaretcare
自宅近くのコンビニエンスストアがまた閉店しました。最初にスリーエフが1年ほど前、3ヶ月前にはローソンが、そしてファミリーマートが建て替えのために今は更地になっています。残ったセブンイレブンには、朝から入りきれないほどの車が入ってきて、レジはスーパーマーケットのように長蛇の列ができています。コンビニはこのような状況ですが、もう一点、おうちコープのような食材を玄関まで届けてくれるサービスも目にするようになってきました。高齢者にとってスーパーへ買い物に行っても、重たくて持って帰れないようなものは、このような宅配は重宝されているようです。まさに、小売業の群雄割拠がダイナミックに動いているのがよくわかる事例です。そしてこれが自由経済であり、企業は、利幅の少ない地区から撤退をして、利益が見込める地区を目指して移動していきます。
これに反して、地域に根ざした商店街や商店は、衰退の一途をたどっています。特に、住居と店舗が一体となったお店は、商店主が高齢になって商売を辞めても、店舗が住居の一部になっていて他の人に貸すことが困難になっています。また、営業を続けていても、住民のニーズを満たせないようならやはり客足は遠のき閉店に追い込まれることになります。さらに、大型スーパーが近郊に出店すると、初めは顧客を食い止めるために様々な取り組みを行いますが、大型スーパーは膨大な顧客データーを元に、よりニーズにマッチした商品を取り揃えて、顧客の関心を引きつけます。宅配サービスもコンビニも同様に顧客の関心を引きつける戦略を打ちつつ、周辺サービスへの展開も広げています。あえて、私が説明するまでもなく、日頃みなさんは目にしており、感じている事柄です。
実は医療機関も同様なことが言えます。昭和30年代から建設省が進めたニュータウン構想は、今や、全国津々浦々に2000ほどもニュータウンを造成してきました。いわゆる団塊の世代が社会人になって結婚して自宅を建て始めた頃です。ニュータウンに欠かせないのが、駅、バス、学校、市場、役所の窓口、警察など、そして医療機関です。ニュータウンの造成とともに若い医師が自宅兼診療所を開設し、地域の児童の健康管理から住民の病気への対応を行ってきました。このころの開業医は地域のニーズもたくさんあって、また、診療報酬も高くて一財産を築いた方も多いのですが、時代が流れてこれらの開業医も高齢になってしまって閉院してしまい、今や、ニュータウンには商店もないし、医療機関も少なくなった状態になっています。ニュータウンは非常に顕著な事例ですが、厚労省の資料によると、全国的に見ても、この10年ほど診療所数は横ばい状態にありますし、病院も含めた全医療機関数は減少傾向にあります。2025年に団塊の世代が後期高齢者になった時点から、医療機関の数は減っても増えることはないでしょう。
私は様々な業種の方々と話をすることがあります。今まで医療との接点がなかったような企業の人も医療ビジネスに関心を寄せています。ただし、その多くは、「病気になって医療機関に受診して、処方箋をもらって薬局で薬をもらう。または、入院して手術をして治す」というイメージが医療の現場と捉えている傾向があります。しかし、実際は今まで述べてきたような大きな視点から医療ビジネスを見ていかなければなりません。なぜ、このクリニックはこんなに人口が減っても、ここに居続けるのだろう?もっと患者が多い地区に引っ越した方が良いのに?と疑問を持つことが大事です。当然、医療制度を知っている人にとっては、こんな疑問を持つことは制度を知らなすぎると考えるでしょう。しかし、あえて、これから医療ビジネスを創出していくには、どっぷりと浸かってしまった経験値よりも疑問から出てくるアイデアの方が強いと思います。
さて、閉店したローソンの駐車場に、テナント募集の広告が大きく出ています。建物の大きさといい、駐車場の広さといい、私個人としは、3km離れたK病院がここに出先のクリニックを作って、在宅医療の拠点にすれば、この辺りの人たちのニーズに合うのにと思ってしまいますが、さて、何ができるでしょう。
当たり前とされていること、変わりようがないと思われていることに疑問を持つのは簡単なことではありません。どうすれば当たり前とされている現状に対して疑問を持って見ることができるでしょうか。山崎さんが紐解いてくださっているように、他の業界と比較したり、現在に至る歴史的な推移を明らかにしたりするなど、複眼的な視点を持つことで、当たり前のように見えることが実は当たり前ではないかもしれない、という捉え方ができるようになります。複眼的視点を得るツールとして、mctでは、前者はアナロジーモデル、後者はエラマップ(年表)をご提供しています。自社の業界を野心的な視点で捉え直してイノベーションの機会を探索するときには、こういったツールが効果的です。(mct/白根)

- Hiroshi Yamazaki山崎 博史
株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表
国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。
twitter @gennesaretcare
こんにちは、mctの池田です。
先日、同僚のエリックから面白いクイズを出してもらいました。
ある状況で、ゾンビの大群が近づいてきました。
それに気がついた誰かが、隣にいる人に向かって声をかけます。
下記のセリフから、あなたはそれぞれどんな状況を想像しますか。
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(1)「後ろを向いちゃダメ! 大丈夫、手をつないでついてきて!」
(2)「お取り込み中申し訳ありません。ゾンビが後ろから迫ってきております。恐れ入りますが早歩きでお願い致します」
(3)「北北西の方角から、死んでいないホモサピエンスが2.5SPSでこちらに向かってきています」
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(1)は幼い子供の親が、子供を怖がらせずに逃げるため
(2)は秘書が社長に対して、電話を中断させて危険を知らせるため
(3)は科学者が、博士に調査状況を正確に伝えるため
...が本当に正解かどうかはさておき、大事なことは、「コミュニケーションにはいくつかの大切な基本要素がある」ということのようです。
・目的(誰に、どんな行動をしてもらいたいか):「不安にさせない」「注意をひく」「正確な情報を伝える」
・内容(伝えたい内容は何か):「ゾンビの大群が近づいてきている」
・表現(相手の立場・能力、状況に合っているか):理解できる、共感できる、活き活きしている
誰かとコミュニケーションをとり、何かを伝えたいという時には、これらの要素を意識することが必要です。カスタマージャーニーマップを作る時にも、同じことが言えます。
・目的:マップを使って、誰に、どんな行動をしてもらいたい(どんな結果をもたらしたい)?
・内容:そのために、マップにはどんな情報が必要?
・表現:そのマップを見る相手に、直感的にわかってもらえる?
これらのポイントを踏まえて、もう少し詳しく、より良いカスタマージャーニーマップを作るコツをお伝えしたいと思います。
作る前に、どんな目的で使うためのマップかを定義する
「とにかく顧客の体験を可視化しよう」と、勢いよくマップ作りに取り組むその前に、まず、「具体的にどんな目的で使うため」のマップか、明確に定義しましょう。
「どうすれば、不動産店を訪れた新規客に、安心して相談しやすいと思ってもらえるだろうか」
「どうすれば、患者がだんだん億劫になる毎日の服薬を、ポジティブな行動に変えられるだろうか」
「どうすれば、通販サービスに加入して1年後の、飽き始めている顧客に、もう一度ワクワクできる体験を提供できるだろうか」
目的が明確になれば、自ずとカスタマージャーニーマップのタイムスパンも定めやすくなります。ある特定のタッチポイントにフォーカスを当ててそこでの詳細な体験を理解したいのか、長期的な視点で全体像を把握したいのか。解決したい問題に沿って適切な範囲設定をすることで、「誰に、どのような形で活用してもらうためのマップか」というメッセージもはっきりしてきます。
カスタマージャーニーマップの主人公を明確にする
「カスタマージャーニーマップを作成したい」というご依頼を受ける際、そもそも自社のターゲット像が明確になっていないことがよくあります。ターゲット像がはっきりしていないと、マップで描き出される内容は表層的なレベルに留まり、それを見ても理解、共感できないという問題が起こります。
そうならないために、主人公となるペルソナとセットにしてカスタマージャーニーマップを作ることをお勧めします。カスタマージャーニーマップに描ききれない、ペルソナの人物像、背景、性格、思考の癖はペルソナシートで理解した上で、その主人公が実際に、時系列でどんなタッチポイントでどんな体験をしているかをマップで明らかにします。そうすることで、ひとつひとつの出来事が顧客にとってどのような意味や感情をもたらしているのかがより深く理解できるようになります。
顧客の視点から世界を捉える
カスタマージャーニーマップのステップが、下記のように設定されているとしたらどうでしょうか。
入店→席にご案内→注文をとる→料理を出す→会計→出店
業務の流れは明確ですが、カスタマージャーニーマップは業務設計書とは異なります。
この一連の流れを、顧客の視点から捉え直してみると、例えば下記のようなステップになります。
店の外観を見て近づく→店の前で混み具合を確認する→入店する→席に案内される→上着と荷物を隣の席に置く→壁のメニューを見上げる→注文する→眼鏡を外す→...
カスタマージャーニーマップを作る時は、各タッチポイントで顧客がどんなメッセージを受け取り、どんな気分になっているのか、製品・サービス提供者の立場から離れ、顧客の目線になって体験を捉え直すことが大切です。一連の流れを顧客の目で見てみると、これまでは当たり前で見過ごしてきたことが、実は顧客にとって「なんかちょっとやだな」と感じることの連続だった...といったことにも気づけるようになります。
さらに、顧客の体験を捉えるためには、「結果」だけではなく、「期待」をマップの中に記載することも効果的です。人は何かを体験する前には、意識せずとも何かしらの期待や想定を抱いています。「売り込みされるんじゃないだろうか」「この病院ならちゃんと診てくれるはず」「このお店ならゆっくり過ごせそう」...。こうした期待を捉えることで、実際の体験が、その期待を上回る素晴らしい体験だったのか、想定内のことか、期待外れのがっかりする体験だったのかが明確になります。さらに、そのギャップの大きさから、体験全体に影響を与えるような重大なペインポイント(あるいは満足度を上げているポイント)がどこにあるのかが把握しやすくなります。
顧客体験に影響を与えるバックステージにも目を向ける
本当に顧客体験をよくしようとすれば、顧客と直接接するフロントステージだけではなく、それを支えるバックステージにも目を向ける必要があります。
例えば、不動産店で家を紹介してくれた担当者は自分に対してとても親身になり、決断を熱く後押ししてくれたのに、後日、経理部門から何の気持ちも感じられない事務的な振込用紙が1枚送られてきたら、どう思うでしょうか。顧客から見て一貫性のない体験は、顧客に不安、不快、不信感といったマイナスの感情を与えてしまいます。顧客との関係が直接ない部門であっても、顧客の体験のどこかに影響を与えています。フロントステージだけではなく、バックステージの動きもカスタマージャーニーマップに加えてみてください。そうすることで顧客体験を良くするための全体像が見えてきます。
いかがでしたでしょうか。顧客の目線で体験を捉える練習としては、自分自身も"ひとりの顧客"として、世の中の優れた製品・サービスを積極的に体験してみることをお勧めします。だいぶ暖かくなって、活動しやすい季節になってきましたので、ぜひいつもよりちょっとだけ意識的になって、いろいろな体験にトライしてみてください!

- Eiko Ikeda株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー
こちらは、イリノイ工科大学デザインスクールのヴィジェイ・クーマー教授が著したデザイン思考の教科書、『101デザインメソッド』を紹介するコーナーです。今回は、101メソッドの中でビッグピクチャーとして使えるものをご紹介しましょう。
Summary Framework(サマリーフレームワーク)
人々やコンテクストの深い理解に基づくインサイト、デザイン原則を1つにまとめるために分析の最後に用いる構造化のメソッドで、サンダース教授の「ビッグピクチャー」がこれにあたります。
形態に関わらず、優れた「サマリーフレームワーク」「ビッグピクチャー」は以下の性格を持っています。作成する際は、これらの項目をチェックリストとして使いながら表現するとよいでしょう。
・あるテーマを完全かつ包括的に表している
・詳細は割愛し、全体レベルの情報のみを示した概略である
・全体レベルの情報は詳細レベルの情報を内包している
・あるテーマの要素間の関係を示す構造を表す
・通常は図表を使って、ひとつの形状で表される
・コミュニケーションを促進し、モードの移行をサポートする
引用:Vijay Kumar『101 Design Methods』186ページ
User journey Map(ユーザージャーニーマップ)
Customer Journey Map(カスタマージャーニーマップ)とも呼ばれますが、顧客のゴールにまつわる一連の体験を顧客の視点で時間の流れに沿ってマップ化するメソッドです。視点を企業から顧客に転換し、顧客のニーズを視覚的なモデルとして共有することができます。
カスタマージャーニーマップでは、一連の体験を通して顧客がどんな結果(ゴール)を得たいのかを軸に、体験の流れに沿って、顧客の期待、行動、考え、感情がどうなっていくのかといった情報が描かれます。また、顧客が抱えているペインポイントや重要度の高いインタラクションなど、鍵となるファインディングを明らかにします。重要なタッチポイントを特定することで、自社やパートナー企業がどこに焦点を当てて顧客経験を改善し、顧客の期待をマネジメントするべきかが分かるようになります。
引用:Vijay Kumar『101 Design Methods』183ページ
Descriptive Value Web(ディスクリプティブ・バリューウェブ)
Prescriptive Value Web(プリスクリプティブ・バリューウェブ)
自社、自社業界、更には近隣業界など、ステイクホルダーの関係性を描き出し、どのような価値交換が行われているのかを視覚的に理解するツールです。
Descriptive Value Webでは現在の状況を可視化する手法であり、顧客(ユーザー)だけでなく、競合組織、サプライヤー、流通業者など関与してくるステイクホルダーを洗い出し、それらがどのように関係しているか(価値を交換しているか)を描き出します。市場全体の仕組みとして見ていくことで、価値がどこで生まれ、どのポイントがキーとなっているか、手が加えられていない場所はどこかなどを見つけ、メンバー間の共通理解や、スコープの設定のためのツールとして活用することができます。
Prescriptive Value Webでは、プロジェクトで新たなアイデアやコンセプトを作成した際、それが市場に組み込まれれば価値交換の仕組みがどのように変化するのかを描き出します。自分たちで出したアイデアは魅力的に映りがちですが、市場の仕組みの中でそれを見ていくことで、市場にどんなインパクトがあるのかどうかを検討することができます。

引用:Vijay Kumar『101 Design Methods』261ページ
クマー教授のコア原則では、イノベーションはシステムとして捉えるべきものだといわれています。つまり、獲得したインサイトをそのままアイデア、ソリューションに変換するのではなく、人、モノ、組織、金の動きや関係といったビッグピクチャーの中で位置づけることで、取り組むべきイノベーションの大きな方向性を明らかにすることができます。

- Satoru Inoue株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/エスノグラファー
こちらは、イリノイ工科大学デザインスクールのヴィジェイ・クーマー教授が著したデザイン思考の教科書、『101デザインメソッド』を紹介するコーナーです。今回は「Offering-Activitiy-Culture Map」をご紹介します。
クマー教授が唱えるイノベーションを成功に導く4つのコア原則の1つに、「経験の周辺でイノベーションを構築する」というものがあります。製品・サービス自体から活動にスコープを広げることで、未対応のニーズを発見することができます。また、活動の中にはそれがなされるための文化や制度が既に結び付いています。常識として認知されている活動が、海外では文化の違いによって成立しなくなってくることは、想像に難くないでしょう。
リズ・サンダース教授は「デザインの初期段階でジェネレーティブデザイン・リサーチを実施する際は、フォーカスを中心に据えつつ、スコープまで探索範囲を拡げる」こと、そのために「プロジェクトのチームメンバーに、フォーカスに直接的・間接的に関連するトピックスのブレーンストーミングやマインドマッピングに参加してもらう」ことを推奨しています。「Offering-Activitiy-Culture Map」を使って、Offering(製品・サービス)からActivitiy(活動)、Culture(文化)の関連性をビジュアル化し、製品・サービスに関連した一連の活動や、影響する文化的要因を整理。そこから重要な関連性を見出すことで、イノベーションの機会を広く捉え直すことが可能になります。
引用:Vijay Kumar『101 Design Methods』47ページ
このメソッドを使う際の進め方を以下にご紹介します。
Step1:製品・サービスとその特性の明確化
図の中央に円を描き、そこに自社が現在想定している製品・サービスを置き、その属性を記入します。
Step2:関連する活動(経験)を描き出す
円の周りに、製品・サービスに関する活動を記入します。ここには、例えば「ひげを剃る」といった直接的な活動だけでなく、「顔を洗う」「刃を取り替える」「著名人の髭のスタイルを参照する」といった前後・周辺の活動も洗い出します。
Step3:文化的背景を描き出す
描き出した活動の周りに円を描き、その外側に、その活動を決定づけている、または影響しうる文化的要因や、規範、制度を書き出します。例えば、「ひげを剃る」という活動には「会社の規定」「エチケット」「社会的信用」などの文化的背景が考えられます。
Step4:イノベーション機会の考察
描き出されたマップを使って、製品・サービス、活動、文化的背景がどのようにつながっているかを理解します。製品・サービスから文化に向けて伸びた枝としてのまとまりだけでなく、それらのまとまり同士がどのように関連しているのかを見ることも重要です。
このように、その製品・サービスを文化的背景にまで広げて捉え直すことで、市場としてどのような機会があるのか、自社はどういった部分に取り組めそうなのか、慣行的な見方から離れてイノベーションの機会を探索することができるようになります。

- Satoru Inoue株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/エスノグラファー