mctビジネスデザインユニットから、新規事業や用途開発のアイデアを考える際の一般的なアプローチと、実際の現場での推進についてご紹介します。
イノベイティブなアイデア発想を行う上で注意するポイント

新規事業や用途開発のアイデアを考えるうえで、弊社は2つのバイアスに注意しています。
過去・現在のトレンドに固執してしまう
過去・現在から未来を予想するアイデア発想では「前にも見たことがあるアイデア」に落ち着くことが多く、斬新なアイデア発想には工夫が必要です。例えば、ITデバイスのトレンドとして、スマホやウェアラブル端末があり、未来は被服や体内に内蔵されるITデバイス、というアイデアは面白味がありません。
業界のフレームに固執してしまう
現在の業界のビジネスモデルや収益構造などの前提が頭に残ったままアイデア発想をしてしまうと、どうしても既存ビジネスの延長線上で成り立つアイデアを発想しがちです。例えば、掃除機事業部が発想する「○○な掃除機」というアイデアはすべて「製造業のビジネスモデルを継続する」ことが前提になっている可能性があります。
そのため、イノベイティブなアイデアを発想するためには、「フォーキャストとバックキャストのバランス」に加え、「自社業界トレンドと他業界トレンドのバランス」をとり、意識的に視野を広げるための情報を取り入れていくことがポイントです。
意識的に視野を広げるための情報の取り入れ方

未来に関するインスピレーションをもとに強制的にアイデア発想をしていきます。弊社ではマトリックス法を用い、2つの変数から強制的にアイデア発想を推進していくアプローチをとることが多いです。
発散技法-強制連想法[4.マトリックス法]|日本創造学会
発想されるアイデアの幅・新規性は上記のバランスによって変化しますので、プロジェクト開始時点でプロジェクトのゴールを明確にし、関与者に共有することが重要です。
意識的に視野を広げるために取り入れるアプローチとして、スキャニングが有名ですが、弊社では101デザインメソッドの「メディアスキャン」「イノベーションソースブック」または「他業界の有識者取材」「コ・クリエーション」を組み合わせて強制発想のインスピレーションとしていきます。
日本総研:未来の芽を掴み取る“スキャニング”
アマゾン:101デザインメソッド ―― 革新的な製品・サービスを生む「アイデアの道具箱」
実際の現場では・・・推進のポイント

では、実際に上記のようなフレームで推進すれば新規事業や用途開発につながるかというと、そううまくはいきません。原因は、発想されたアイデアと参加者の主体性・所有感とのギャップにあります。
斬新なアイデアを出すこと自体はそう難しいことではありません。ただ、そのアイデアが本当に顧客の課題を解決し、ビジネスとして成立するかを検証するフェーズにおいて、アイデアに対する熱量や思い入れを担当者が持っていないと、以降の検証フェーズが「プロセスをこなす」だけになってしまい、その場限りのアイデアになってしまいがちです。
そのため、キックオフのセッションでは参加者のマインドセットと合わせて、必ず参加者全員に「すでに持っているアイデア・仮説」を書き出してもらいます。そして、以降のプロセスでも新しく発想された仮説・アイデアと平等に取り扱うことで、「今まで密かに考えていたアイデアに対する担当者の熱量・思い入れ」を持って、検証フェーズに取り組んでもらっています。ときにはそのアイデアが全く受け入れられないこともありますが、思い入れのある仮説が顧客から直接否定されることで、「では顧客が求めているものは何なんだ?」と顧客志向が芽生える一助となります。

新規事業や用途開発の推進には、いかに参加者の主体性を確保するかがポイントです。またヒントも意外と社員の胸の内にあったりするものです。もしプロジェクトを検討する際は、実施手法やプロセスだけではなく、マインドセット・オリエンテーションを大切にしてください。
もしプログラムの詳細に興味のある方はこちらより相談受付・資料送付を行っております。
新規事業・新規技術のビジネス開発プログラム

- Fumihiro Shimono株式会社mct
ストラテジスト
■イノベーションの現場で起こる"生々しい"問題
―「株式会社○○ イノベーション推進室 新規事業開発担当の○○です」。
最近、社外の方と名刺交換させていただくと、所属部署名に「イノベーション」や「新規事業開発」といったワードを頻繁に目にするようになってきました。イノベーションや新規事業開発に関わる担当者はクリエイティブ活動に必要な情報やネットワークを欲しており、社外のイベントにもよく参加されています。4人グループで名刺交換したりすると、私以外の全員がそんな担当者だったりすることもしばしばです。実際に多くの企業で新たな挑戦をミッションとした新設のチームが立ち上げられています。既存事業からの脱却や新規事業への挑戦は、ビジネス書の中だけで取り上げられる先進的活動ではなく、多くの企業にとってスタンダードな活動になりつつあるようです。
社内から選抜された期待のメンバーが集まり、バジェットも与えられ、華々しい冒険の始まりに見えるイノベーション活動ですが、現実はなかなかそうもいきません。イノベーションや新規事業が持つ、華やかで挑戦的なイメージとは異なり、実際の担当者の方々から聞かれるのはたくさんの苦悩の声です。
「社長からは何をやってもいいと言われているんですが、何でもいいと言われても...」
「今まで全く違う仕事をしてきたのに、急に新規事業なんてできっこない...」
「とにかく3年以内に結果を出せと言われています...」
「周りの部署からどう思われているのかが心配ですね...」
こういった実態を目の当たりにすると「イノベーションのジレンマ」でクリステンセンが指摘している話よりも、現場はずっと"生々しい"と感じます。このように新規ビジネスの挑戦がうまくいかないのはいくつかの理由があります。もちろんフェーズによって起こり得る問題も異なりますし、解決策もまた様々です。ここではある種の『作法』を身につけることによって乗り越えられるテーマについてお話します。テーマは「ビジネスモデルデザイン」です。
■ビジネスモデルキャンバスという『作法』の必要性
イノベーション活動の現場において、魅力的なアイデアはあっても収益モデルや事業モデルが設計できない、というケースが多く発生しています。ビジネスモデルデザインが課題になっているのです。実際、アイデアから事業設計には大きなジャンプが必要で、具体的には以下のような問題がその難しさの要因として挙げられます。
・事業設計の方法論を知らない
・誰も事業設計などやったことがない
・新しい事業のポテンシャルを明らかにすることが困難
・既存事業のロジックを当てはめてしまう
・アイデア自体が未成熟
これらの問題を解決する『作法』が「ビジネスモデルキャンバス」です。
・顧客セグメント(Customer Segment)
・提供する価値(Value Proposition)
・チャネル(Channel)
・顧客との関係(Customer Relation)
・収入の流れ(Revenue Stream)
・主なリソース(Key Resource)
・主な活動(Key Activity)
・パートナー(Key Partner)
・コスト(Cost Structure)
の9つの要素からなる事業設計のためのツールです。ここではビジネスモデルキャンバスについては詳しく触れませんが、書籍『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書(翔泳社)』をはじめ、オンライン記事などもたくさんありますのでご参照ください。
■現象は構造から生まれる
このビジネスモデルキャンバスを『作法』と呼ぶのには理由があります。ビジネスモデルキャンバスは単にそのキャンバスを埋めて完成させることが目的ではなく、各要素間の関係性やつながり、キャンバス全体の意味や構造を意識する必要があります。なぜならビジネスモデルは生き物だからです。人間の体が多くの細胞による複雑なつながりで成り立っているように、ビジネスモデルもまた全体を一つのシステムとして捉えるという『作法』が必要なのです。
mctでは、6月18日(木)に「ビジネスモデル・ジェネレーション」の翻訳者・小山龍介さんを講師にお迎えし、イノベーションのためのビジネスモデルデザインをテーマにセミナーを開催しました。その中で小山さんは、独特の言い回しを用いながらビジネスモデルの性質を表現されています。一つは「現象は構造から生まれる」という話。顧客が受ける価値や体験といった現象は、それを提供する構造、すなわちビジネスモデルから生まれるという意味です。これもまたビジネスモデルが統合されたシステムであることを前提とした考え方です。また、ビジネスモデルキャンバスにおいて、守(構造化)、破(想定外の変化)、離(再構造化)という考え方にも言及されていました。これは構造化されたビジネスモデルが、一部の要素変化によってビジネスモデル全体が再構造化され、新たなシステムとして生まれ変わることを表しています。正に生き物の進化を表現しているようです。

ビジネスモデルキャンバスをうまく使えないといった声もよく耳にしますが、それもこういった『作法』として使いこなすことができていないからだと思います。9つの要素を埋めて完成させるという視点ではなく、キャンバスの構造を意識しながら組み立てることが必要です。またその過程においてはプロトタイピングのマインドセットも大切です。一度完成させたら終わりではなく、要素間の関係性を確認しながら何度も微調整を行い、さらに運用を通じて絶えず修正を繰り返していかなければなりません。生き物としてのビジネスモデルの特性を理解し、『作法』を以てビジネスモデルキャンバスを使いこなせるようチャレンジされてはいかがでしょうか。
※ビジネスモデルキャンバスに興味がおありの方は、お気軽にお問合せください。小山さんを招いてのプライベートセミナー等も実施可能です。

- Akihiro Yonemoto株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/ストラテジスト