
こんにちは、デザインインサイトチームの景山です。
上の写真に写っているものについて、ご存知の方もいらっしゃるでしょうか。新宿ミロード・モザイク通りの一角に設置されている、階段のような建造物なのですが、数段上った後、すぐ下りる段がやってきます。上って、ただ下りるだけ。何なんでしょうこれは。
「階段」という語を辞書で引くと、「高さの異なる所への上り下りのために作った段々の通路」(三省堂『大辞林』)とあります。今いる場所よりも上または下に移動する目的のために作られ、設置されるもの、それが階段だと言えるでしょう。
その視点でみると、上の写真の構造物は、移動の結果として上にも下にもたどり着けるわけではありません。ただ上り、ただ下りて、すぐもとの高さに戻ります。先に述べたような階段の目的を果たさない、いわば無用の長物です。あらためて何なんでしょうこれは。
画家で作家の赤瀬川原平は、このような、ただ昇降運動のみを強制し、それ以外の何の見返りも期待できない階段を、「純粋階段」と名付けました。他にも出入り口だけが丁寧に塞がれてくぐることができなくなった門、「無用門」などの物件をまとめ、“社会上の何の役にも立たないのに、まるで芸術作品のように大事に保存され、独特の佇まいを持っている”存在、すなわち「超芸術トマソン」(※)という概念で呼びました。本来の目的を持たない・持たなくなった事物を、“芸術作品”という別の視点で捉え直したのです。
この「超芸術」の実践は、私たちが気づかないうちに前提としてしまっているものの見方に気づかせてくれるという意味において、非常に示唆的です。モノや道具というものには、通常それが使われる目的があります(ドリルは穴を開けるためのもの、といったように)が、何らかの原因で(例えば壊れるなどして)目的を果たせなくなってしまうと、それが有している別の側面が突如露わになってきます。このとき私たちは、対象に対する「支配的な認識のフレーム」を外れて、別のフレームで事象を捉えるチャンスを得ている、と言えるでしょう。冒頭の階段の例で言えば、それが“階段はふつう上か下に移動するためのものだ”というフレームで見るとうまく理解できないが故に、別のフレームで見直しているうち、なんだか芸術作品っぽく見えてきてしまう、というわけです。
イノベーティブなアイデアを発想するためには、上のような“認識のリフレーム”を行うこと、すなわち、暗黙の前提や支配的なものの見方に気づき、別の見方で問題や対象を捉え直すことが重要です。モノや道具から、それらが持つ主要な“目的”を取り払ってみる、という遊びは、リフレームの良い訓練になるのではないでしょうか。
(※)「トマソン」の意味や語源については以下の書籍をご参照ください。
赤瀬川原平『超芸術トマソン』筑摩書房、1987年
赤瀬川原平、南伸坊、藤森照信編『路上観察学入門』筑摩書房、1993年

- Satoshi Kageyama株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー
こんにちは、mctの増田です。
ZMETを提唱するOZAのジェラルド・ザルトマン教授は、著書『心脳マーケティング』の中で次のように述べています。
“マーケット・セグメンテーションの高度化が進み、マネジャーは消費者間の深層レベルにおける類似点ではなく、表層レベルに見られる相違点に焦点をあてるようになってしまった。
もちろん、消費者はそれぞれ似通う点と異なる点を両方併せ持つが、類似点にこそ、消費者の思考を理解し、購買行動に影響を与える鍵がある。”(『心脳マーケティング』P169より引用)
「類似点にこそ鍵がある」という言葉は、シンプルながら非常に示唆に富むものですね。
しかし一方で、こんな疑問も湧いてきます。
「類似点を追うと、万人受けに陥り、結局、誰の心も揺さぶらないのではないか…?」
上記のリスクを避けるためには、表面的な類似点の先にあるもの、ザルトマン教授の言葉を借りるならば「深層レベルにおける類似点」に目を向ける必要があります。
一例を挙げましょう。
唐突ですが、以下の言葉の羅列をながめてみてください。
浮かぶ/気分が上がる/天国/上昇気流に乗る/起業
沈む/気分が落ち込む/地獄/下降線をたどる/倒産
仮にこの記事を読んだ方が100名いたとして、100名全員が上のグループの言葉からは「良いイメージ」を、下のグループからは「悪いイメージ」を読み取ったと断言します。
「そりゃそういう意味の言葉なんだから当たり前だろ」と突っ込まれてしまいそうですが、次の問いを考えてみてください。
「では、そもそも、“上”=“良”で、“下”=“悪”と感じる理由は何か?」
人はなぜ、例外なくこのように認識するのでしょうか。
我々は「上下」の概念を日々あまりにも無意識に用いているため、理由を即答できる人は少ないかもしれません。
この根本的な問いに対し、ザルトマン教授は実に鮮やかな解釈で答えます。
“重力の法則はすべてを支配する。上に行くということは下に行くことよりも難しい。よって、上に上がるという概念は、成果や卓越さを表す。上に上がるということから連想されるイメージ、たとえば飛んでいる鳥、放たれた矢、星、山、成長する木、塔などは、我々が到達したいと考えているもの、簡単に言えば、何かよいものを表している。下というのはその反対を表す。”(『心脳マーケティング』P253-254より引用)
言われてみるとなぜ気づかなかったのか、というぐらいシンプルなことですが、我々の世界には「重力」が存在します。
そして地球上で暮らす限り、この法則から逃れている人は存在しません。

以前、あるサイエンスライターの方にインタビューをしたのですが、「この先、どれだけテクノロジーが進化しようと、人間が地上で感じる“G(重力)”の身体的感覚だけはなくならないだろう」というようなことを仰っていました。
理屈を越えた「身体的な認知」を通して得られる感覚は、私たちに共通して備わる強烈な「類似点」であり、これをビジネスに使わない手はないでしょう。
ただし、その取り扱いには注意が必要です。
普遍的な類似点は、意識の表面ではなく、無意識下で感じている性質のものです。そのためストレートに「“上”は素晴らしい」というメッセージを伝えても、心にまでは届きません。むしろ「当たり前でしょ?」と反発すら招いてしまいます。
普遍性をうまく活用するには、左脳(ロジカル)よりも、右脳(エモーショナル)に訴えかけるほうが得策でしょう。
個人的に素晴らしいなと感じている事例は、サッポロビールの『大人エレベーター』の広告です。CMでは、俳優の妻夫木聡が「階上」に向かう「エレベーター」に乗って「年上」の人に会いに行きます。(まれに年下のケースもありますが)
出会った大人たちは皆活き活きとしていて、「年齢が上がる」ことへの憧憬を感じずにはいられません。
さらに『丸くなるな、星になれ』というコピーも秀逸です。「星」は「ブランドロゴ」と「個性」を象徴しているようですが、同時に「“上”=“良”」という普遍性を巧みに表現したメタファーでもあるように私には思えます。
ちなみに、こちらの広告が始まったのは、2010年の1月。表現の入れ替わりの激しいCMの世界において、実に7年以上も同じスタイルを持続させ、かつマンネリにもなっていないというのは驚異的なことではないでしょうか。
これだけ長く愛される理由の一つは、時代が移っても変化しない、絶対的な普遍性に焦点を当てているからこそであると言えるでしょう。「普遍的な類似点」をビジネスに取り入れる最大のメリットは、まさにこの「長く愛される」点にあります。
ザルトマン教授はこうした深層レベルの類似点を『ディープメタファー』と呼んでおり、本記事で取り上げた「上下」の概念に関するものは、『方向性(Orientation)』という名前で定義されています。
ディープメタファーは、人間が世界を認識する際の最も根本にある共通の思考の枠組みであり、全部で26個存在します。残りの25個に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
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mctでは、ディープメタファーを解き明かす世界的メソッド『ZMET法(Zaltman Metaphor Elicitation Technique)』の
ライセンスを、日本企業で唯一保有しています。ZMETメニューに関心がある方は、以下URLをご参照ください。
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◆ZMETのお問い合わせ・資料請求はこちらから◆
http://mctinc.hs-sites.com/zmet?hs_preview=brPRolVj-5224702567
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- Nobuo Masuda株式会社mct
エスノグラファー/エクスペリエンスデザイナー
- こんにちは!みなさんはもう、mctの新しいアプリ「mctINSIGHT」はお試しになられたでしょうか?
- まだの方はぜひ、ダウンロードしてみてください。
- 引き続きご回答いただいているみなさま、ありがとうございます!この後、第2回アンケート「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)」の結果ブログの配信を予定しておりますので、お楽しみに!
第3回となる今回のテーマは「あなたの考えるデザイン」です。
- 回答期間は2週間です。結果のレポートは回答締め切りから約2週間後に、こちらのブログとアプリ内でおしらせします。


- Misuzu Tomita株式会社mct エクスペリエンスデザイナー

第1回のアンケートの回答へのご協力ありがとうございました。
今回はテーマは「AIの未来」!!
最近よく聞く、このAIについて
みなさんに大きく2つのことを質問しました。
Q1.AIに対するご自身の気持ちを教えてください。
こちらはFACEという顔の表情で答える仕組みを用いてアンケートをとりました。
100段階の顔の表情で、対象に対するイメージを探ることが出来るので、
より細かなニュアンスについて知ることが出来ます。
今回はAIという言葉ともう一つの言葉を掛け合わせていって、
みなさんのAiというものに対しての感情の機微を探りました。

「AIそのものに対して」
「AI×買い物」
「 AI×医療 」
「 AI×仕事 」
「 AI× 幸せ」
の計5項目に関して
アンケートの結果はこのようになりました。

AIの発展によって仕事が奪われるなどの話題も世間を賑わせていましたが、
全て50点を超える結果となり、
全体的に良いイメージがあることが伺えます。
特に「AI×医療」に関して期待がある一方で、
「AI×幸せ」はやや点数が伸び悩む結果となりました。
ヒストグラムで点数の分布を見ると以下のようになりました。

「AI×仕事」で満点をつけた人が全て20代というのは面白いですね。
次に、
Q2.”パートナーとしてのAI”でイメージする画像を選んでください。
こちらは、CARDという画像を選択するタイプで
みなさんのAIに対するイメージについて探っています。
「従順度」「賢さ」の2軸で4タイプの画像を
事前に集めていました。
アンケートの結果、人気があったのは・・・

1位執事、2位人型ロボット、3位ドクター と、
「賢いかつ従順グループ」の画像でした。
フリーアンサーを見ても「ベストな選択を」「提案」「頼れる」「忠実」など、
自分より賢いけれどもあくまで自分自身が中心で
サポートしてくれるイメージを期待していることがわかります。
ちなみに次に人気のグループは左上の
「ぬけてる可愛らしさがあるかつ従順グループ」の画像でした。
2つの質問、
どちらの結果からもAIに対する期待の高さが伺い知れましたけれども、
実際AIを使った機能やサービスを提供していく上で
どういったことに注意していけば良いのでしょうか?
弊社代表の白根に話を聞いてきました!
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AI、AI×医療、AI×仕事が笑っているのに比べて、
AI×幸せ、AI×買い物が無表情なのはどうしてでしょうか。
自由回答を読むと、その理由がなんとなく理解できます。
AI×仕事:「嫌な仕事をしなくて済む」=笑顔
AI×医療:「治らない病気が治る」=笑顔
AI×買い物:「買い物が便利になるけど面白くなくなる」=無表情
AI×幸せ:「ピンとこない」=無表情
この解釈からAIを使った製品やサービスについて考えると、
以下のことがいえそうです。
機能のはっきりしているAIは理解されやすい
機能訴求には限界がある(すごい笑顔にはならない)
AIを使った機能が、逆に楽しさ(情緒的価値)を低下させてしまうことがある
AIからは幸せといった上位レベルの情緒的価値が想起されにくい
一方、画像を使った質問では、
「賢い/従順グループ」の画像が最も選ばれ、
その次に 「可愛らしい/従順グループ」の画像が選ばれました。
「AI×幸せ」の質問では
AIと情緒的価値のつながりがピンとこなかったようですが、
画像を使った質問では、
多くの人が心のどこかでAIに「可愛らしい」「従順」
といった情緒的価値を求めていることがよくわかります。
選ばれた画像からAIを使った製品やサービスについて考えると、
以下のことがいえそうです。
とても高度な機能を持つ製品・サービスを期待している
可愛らしい/従順であれば機能が乏しい製品・サービスも受け入れてもらえる
いくら機能が高度でも可愛らしくない/従順でない製品・サービスは受け入れてもらえない
これらの解釈には共通するポイントがありそうです。
ZMETのフレームワークを使って俯瞰してみると、
そこに「コントロール」というディープメタファーが浮かび上がってきます。
一言でいえば、消費者はコントロール感が得られる
製品・サービスを求めている、ということになります。
「コントロール」というディープメタファーを使って、
AIを使った製品・サービスのポイントをいくつかあげてみます。
- 顧客の期待と実際に提供できる機能とのギャップが生まれないように適切にコミュニケートする
- 提供する製品・サービスの機能を高めることで、逆に利用者のコントロール感や自律性を削がないようにする
- 製品・サービスを利用している時、利用者自身が有能で自信に満ちていると感じられるようにする
- 製品・サービスをを利用している時、利用者が「自分がその世界の中心にいる」と感じられるようにする
「コントロール」だけでなく、情緒的価値を高める
「コネクション」「リソース」「ナーチャリング」
といったディープメタファーの活用を考える
いかがでしょうか。
少々強引な考察でしたが、
何か少しでもヒントを得ていただければ幸いです。
〜お願い〜
mctINSIGHTでは、月に1回アプリを用いてアンケートを配信しています。結果は、分析したのちブログにて配信していきます。アンケート自体もゲーミフィケーションを用いた面白いものなので、ぜひご参加ください!! ↓↓↓参加はこちらから!
mctINSIGHT紹介ページ

- Keisuke Kawai株式会社mct エクスペリエンスデザイナー
誰しもがそうだと思いますが、専門家として物事を突き詰めれば突き詰めるほど、我々は視野狭窄に陥りがちです。また、良いものを作りたいという情熱的な想いは、えてしてあるユーザの課題を解決することから始まることが多く、その技術の活用用途を限定してしまいがちになります。少し周りを見渡せば、実はその技術を必要とする人はもっといるのではないでしょうか。
本プログラムの特徴
1:「新しい技術」の想定用途の枠を広げる
2:用途アイデア開発セッション
3:クイックに検証し、アイデアを絞り込む
■思考の枠を拡大させ、スイートスポットを見つける
「今、開発中の技術は、ターゲットととした市場に対してフィットしているのか?」
「この技術のもっと活用できるスポットを増やしたい!」
そういう想いを持たれたら、まずは技術用途について枠を広げることから始めましょう。
下図は、「スポーツ観戦用に開発されたカメラと連動する指向性マイク」の例です。
「スポーツ観戦用」というのが現状想定用途(下図の中心)ですが、
類似した機能製品から活用場面を考えると、
一番外側の輪にあるように、スポーツ観戦以外にも様々な活用スポットが見だせます。
その中のどこにフォーカスするか、外部の人間とディスカッションすることで決めていきます。なお機械発見のときと同じく、1つのスポットに決め打ちするのではなく、2~3の複数スポットに対して掛け合わせることを意識します。スポットを決めたら、話を聞いてみたい業界エキスパートやクリエイターを決めます。アイデア開発セッションでは、「この技術があったらどんなアイデアが思い浮かぶか」を彼らに発表してもらいながら、アイデアについてブラッシュアップしていきます。
■アイデアからビジネスモデルへと昇華させる
ブラッシュアップしたアイデアを、短期間でコンタクトをとれる方に対して簡易検証を実施します。例えば、業界新聞を発行している会社の記者や、その分野に造詣の深い研究者、アーリーアダプターなどにコンタクトをとり、アイデアに対する意見、市場規模感、どのようなライバル企業やパートナー企業がいるのかなどについて確認をとります。ヒアリング結果から、さらにアイデアをブラッシュアップしてビジネスモデルを作成していきます。
プログラムの詳細については知りたい方はこちらより相談受付・資料送付を行っております。

- Yoshiki Uno株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/エスノグラファー