こんにちは、mctの米本です。
今年からmctが事務局を担当している
「DMN(ダイヤモンドデザインマネジメントネットワーク機構)」。
今回は、5月17日に実施した「ビジネスデザインプログラム」シリーズの第1回ワークショップ「サービス・マネジメント(講師:一橋大学大学院 藤川佳則 准教授)」をダイジェストでご紹介します。
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第一回テーマ
『サービスマネジメント』
講師 藤川 佳則 氏/一橋大学大学院国際企業戦略研究科
准教授 & MBA Program, Academic Affairs担当
「脱コモディティ化」「製造業のサービス化」「モノのインターネット化」などの現象に見られるように、サービス企業にとっても、モノづくり企業にとっても、従来の産業の垣根を超えて新しい価値づくりが活発化しています。当ワークショップでは、これらの現象の根底にある考え方、課題、あらたな機会について次の3つのステップで議論していきました。
ステップ1. TREND | いま地球規模で起きている3つのキーワード
SHIFT(世界経済はサービス化へ)
世界経済がサービスにシフトしています。例えばギャップマインダーを使えば、世界中の国の産業人口が何十年、何百年という単位で一次産業から二次産業、二次産業から三次産業へと移行していく様子を見ることができます。経済のサービス化は、先進国に限った現象ではなく、地球規模で起きている大きなトレンドです。

MELT(産業の垣根は曖昧に)
製造業/サービス業といった区分が実態に合わなくなってきています。アップルにはiPhoneという製品がありますが、その上で動くiTunesがあり、アップルストアで小売もしています。IBMや富士通など統計上は製造業ですが、活動の中心はサービスです。 自動車産業のバリューチェーンは自動車を販売まででしたが、電気自動車になると納車した後の電力の使い方や蓄電のしかたのサポートなど、販売後もバリューチェーンがつながっていきます。

TILT(未来は北緯31度の北から南へ)
世界経済の重心が北半球から南半球に移ります。2022年、世界の中間層の人口が貧困層を上回り、2030年には50億人が中間層になります。富が北から南へ動き、雇用が北から南へ動きます。これらの変化が、南側で生まれた企業によってもたらされます。南側の企業はあらゆる側面から北側の企業に挑んできます。世界経済において北側の企業はもはや支配的な存在ではなくなります。
ステップ2. PERSPECTIVE | 「価値づくり」のむかし・いま・みらい
グッドドミナントロジックからサービスドミナントロジック、
そしてマルチサイドプラットフォームへ
かつて、モノとサービスは別物で、価値を作るのは企業、顧客は対価を払って価値を消費する存在という考え方=グッドドミナントロジックが一般的でした。企業は、顧客に手渡すまでに高い価値を作り込み、交換価値を最大化することを追求してきました。
サービスドミナントロジックでは、モノもサービスもサービスとして捉え、お客さまが消費行動を取っているときに価値が生まれ、お客さまも価値を生成する役割を果たしていると考えます。この考え方では、企業は、お客さま自身が持つ資源を組織の中に入れて、それらを組み合わせて使用価値を最大化することを目指します。
サービスドミナントロジックの基本概念は価値共創です。価値共創の相手を複数にしていくとマルチサイドプラットフォーム(複数の顧客グループ間のインタラクションを可能にすることによって価値創造を図る技術や製品、サービス)になります。
いまや世界473都市にまで広がっているUber。文字認証によるセキュリティシステムを使って、世界中の語学ニーズと翻訳ニーズを同時解決するduoLingo。10億人の飢餓と肥満を同時解決するTable for Two。きれいな水を飲めない10億人に浄水器を届けるLifeStraw。SHIFT、MELT、TILTというトレンドを捉えたマルチサイドプラットフォーム型のビジネスが次々と出てきています。

ステップ3. DISCUSSION | 皆さんへの問い
価値創造 (Value Creation) と 価値獲得 (Value Capture)
事業のサービス化を目指すとき、企業は「どの価値の最大化を目指すのか?(価値創造)と「何に課金するのか?(価値獲得)」の2つの次元で交換価値から使用価値への移行を検討することになります。
コマツは、製品そのものの交換価値の最大化を追求する建設機械メーカーでしたが、KOMTLAXによって使用価値を創造し、その価値を従来通り製品に課金する(交換価値)ことを選択し、事業を拡大しました。そして鉱山採掘事業では、価値獲得をコンサルティングサービスとして課金する(使用価値)展開をはじめています。
価値創造と価値獲得を分けて考えることは、特にマルチサイドプラットフォームを検討する上でとても重要になります。

いま起きつつある未来
一台も車両を持たない世界最大のタクシー会社Uber、自社ではコンテンツを一切作成しない世界一のメディア企業Facebook、一部屋も不動産を所有しない世界最大の宿泊提供業者Airbnb。自社が資源を保有して、そこから価値を創造していくという私たちが当たり前だと思ってきたことが過去のものになりつつあります。
さまざまな分野で多種多彩な現象が起き、表面上はそれぞれ全然違って見えますが、その背後には、同じような価値作りの論理があるかもしれません。そこにサービス・マネジメントの観点から、どういう視点を提供できるだろうかというのが私たちのチャレンジでもあります。
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以上、藤川准教授による濃厚な6時間をダイジェストでご紹介しました。これをお読みいただくだけでも、これからのビジネスデザインのエッセンスがご理解いただけたのではないでしょうか。
次回のDMN「ビジネスデザインプログラム」は7月15日(金)に開催されます。講師に「東京大学先端科学技術研究センター 森川 博 教授」をお招きし、「IoT」をテーマにしたワークショップを開催します。
IoTはサービスマネジメントとも密接な関係があります。
これからのビジネスをデザインするにあたり、oTにどのようなスタンスで取り組むのがよいのでしょうか?
IoTによる企業の競争力や価値のポイントは、どこにあるのでしょうか?
ぜひこの機会をご活用いただき、貴社のIoT推進の一助としてください。
DMN:ビジネスモデルプログラム「IoT」
http://www.dmn-program.jp/program/bd_160715.html
- 日時:2016年7月15日(金) 10時-17時
- 場所:ミッドタウンインターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
- 講師:森川博之氏 東京大学先端科学技術研究センター教授
DMN:年間メンバーシップ
ビジネスモデルプログラム「IoT」への参加も含んだ、お得なDMN年間メンバーシップもございます。
http://www.dmn-program.jp/index.html#member_unit
追伸
今回お世話になった藤川准教授とは、弊社が展開する「ZMET共同プロジェクト」でもご一緒させていただきます。「ZMET共同プロジェクト」は、心理学や脳科学を用いて生活者の深層心理を分析するメソッド「ZMET法」を、共通のテーマを設けて複数の企業で共同で実施する、今年で二回目のプロジェクトです。
今年のテーマは「シンプル」。普段のビジネスにおいても何気なく使っている「シンプル」というキーワードの背後に隠れた、さまざまなインサイトを探求します。
藤川准教授にはキックオフイベントでのレクチャーをご担当いただきます。イベントは、今夏に東京にて開催されますが、前半は、どなたでも参加いただけるオープンイベントとして開催されますので、参加ご希望の方は、下記までお問い合わせください。
▼お問い合わせ
株式会社mct tel: 03-3405-5135
東京 担当:塚田(つかだ)tsukada@mctinc.jp
大阪 担当:藤田(ふじた)fujita@mctinc.jp

- Akihiro Yonemoto株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/ストラテジスト
シリコンバレーで有名なデザイナーのひとりが、ジョン前田氏だ。前田氏は、もともとソフトウェア・エンジニアの教育を受けたが、後にグラフィック・デザイナーになり、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの教授を務めた後、ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)の学長に就任した。ここまでは、デザイナーとしても輝かしい職歴だが、その後の転身には誰もが驚いた。シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストになったのだ。
2014年に、同氏がシリコンバレーでも有数のベンチャー・キャピタル会社として知られるKPCB(クライナー・パーキンズ・コーフィールド・バイヤーズ)のデザイナー・パートナーとして就任したことは、テクノロジー業界でのデザインの重要性が無視できなくなってきたことを示していた。すでにテクノロジー企業としてアップルはデザインの面でも抜き出ていたが、それ以外でもスマートフォンのデザイン性、アプリの美しさや使いやすさなど、デザインがテクノロジーの中で占める度合いが非常に大きくなっていたのだ。
KPCBに移った後、前田氏はポートフォリオ企業にデザインに関するアドバイスを行ったり、デザイナーで起業できる人材を探したりといった仕事を行ってきたが、同時にあるプロジェクトをスタートさせた。それは『Design in Tech』というリサーチである。『Design in Tech』は、現在のテクノロジー業界におけるデザインの重要性や意味を、デザイナーの数、デザイン会社の買収数、デザイナーが創業したスタートアップ数などで示し、さらに「デザイン」のあり方がどう変化しているのか、それによってデザイン教育はどう変化すべきかを分析する。
昨年第1回レポートが発表され、先頃第2回の2016年度版が公開されている。そこからいくつかのポイントを拾ってみよう。まず、デザイナーはテクノロジー企業に多く雇われるだけではなく、前田氏自身のようにベンチャー・キャピタル会社でデザイン・パートナーや投資パートナーとして在籍するケースが多くなった。すでに30人を超えるデザイナーが投資側にいる。
従来のデザインと現在のデザインの違いについては、こんな比較を行っている。対象とするユーザー(従来は数100万人vs.現在は最大数億人)、製品完成までの時間(数週間から数ヶ月vs.インターネットで断続的に改訂)、完璧度(達成できるvs.常に進化し続ける)、デザイナーの自信度(絶対的vs.高いがテストやリサーチの分析にオープンに対処する)などだ。デザイナーとして求められる資質が大きく変化しているのが、これでわかる。
デザイナーにとって、プログラミングを理解するのが必要になったということも、デザイナーへのアンケートの結果から伝えている。370人のデザイナーに尋ねたところ、「必要」と答えたのは93.5%にも上った。プログラミングができることで、ただの上辺だけのデザインではなく、ユーザー・インターフェイスやエクスペリエンスといった深みのある部分までデザインの考え方を適用することができるからだ。
また、従来のデザインは、デザイン思考としてツールになった後、今や無数のユーザーにリアルタイムでデザインを行う「コンピューテーショナル・デザイン」が登場しているという。さらに、デザインはユーザーに対するシンパシー(共感)や多様性を内包したものが評価されるという。これも、これまでの「カッコいいデザイン」といった単純な軸が通用しなくなることを示唆するものと言える。
同じ「デザイン」ということばが使われているが、その中味や方法論、位置づけは急速に変化している。デザイナーもそこに敏感でなければ、ユーザーに通じるデザインができなくなっているのだ。『Design in Tech』レポートのメッセージは無視できない。

引用:http://www.kpcb.com/blog/design-in-tech-report-2016

- Noriko Takiguchiフリージャーナリスト
こんにちは、mctの上陸です。
5月16日(月)に開催したConvivial Salon Vol.3『リサーチって誰のもの?~リサーチの未来~』についてご紹介します。
Convivial Salonはmctの新たな活動として今年の1月から開催しているイベントのひとつで、さまざまな業種、職種で働く人々が、その垣根を越えて集い、対話し、楽しみながら学び合おうという趣旨の共創型セミナーです。

昨今の市場環境下では、リサーチの果たす役割にも変化が求められています。
変わりゆく環境の中で、リサーチはどうあるべきなのでしょうか。
今回は、生活者研究、脳科学など様々な立場からリサーチ領域で活躍する3名のプロフェッショナルをお招きし、参加者の方々と「リサーチ」を深く、ともすれば哲学的に考察を深めました。
◆キリン株式会社 キリン食生活文化研究所所長/太田恵理子氏
◆ライオン株式会社 生活者行動研究所 生活者研究担当部長/原憲子氏
◆株式会社GFL CEO代表取締役/田邊学司氏
(ゲストスピーカーの自己紹介)
◆田邊学司氏:株式会社GFL
「なんとなく」決めて買うの「なんとなく」とはなにかを考え続け、「いい質問があっていい答えが生まれる」ということに気づき、それがファンケート(GFLの提供する非言語マーケティングの知見を応用したアンケートサービス)をつくることにつながった。

◆原憲子氏:ライオン株式会社 生活者行動研究所
2010年よりライオンの中での総合生活研究所を目指して活動。「お客様が何を考え、どう行動しているか?」今のお客様にしかわからないことだが、「あいまいなもの」を分解して、「少し先まで含めて生活者の意識の見える化」に取り組んでいる。
◆太田恵理子氏:キリン株式会社 キリン食生活文化研究所所長
生活者と社会の変化に関する研究を行われ、お客様に様々なアプローチする日々。Web調査、ソーシャルリスニング、MROCなどネットを使った手法を早い段階から試し、成果も得られたが、10代若年層のインサイトに切り込んでいるのかどうか、まだ自信がない。今日は参加者のみなさんとそこのところを語り合いたい。
今回のサロンは、ゲストスピーカーの方から1つずつテーマが出され、参加者が、お酒や軽食を片手にディスカッションするという形で進行していきました。
■1stテーマ: 「男子高校生のインサイトを掴むには何を調べればいいか?」 太田氏
参加者からは「先生やお母さん、女子学生もインタビュー対象者としてとらえ、多角的に男子高校生をとらえる」といったアイデアから、「男子なんて子供のまま、中学生と大学生にインタビューし過去と未来から迫る」、「コンビニや自販機の前で、買った直後にいきなりインタビューをする」といったものまで様々なアイデアが出てきました。
田邊氏からは「フリーになって、自分の息子2人と接する機会が増えた。"こんな生き物なのか!"と思い、やっぱり"生で見ないとダメだな"と改めて思った」など含蓄のあるコメントをいただきました。
■2ndテーマ: 「『生活者研究』とは、生活者の何を、どうやって知るべきか?」 原氏
深いテーマに、みなさん難しい顔をされながらも楽しくディスカッション。「今のことだけ切り取っても、結局は時代の流れに流されていってしまうので、未来に起こることを予測しとらえていくべき」といった意見や、「あくまで未来を予測する材料をとして今の情報をそろえる(知る)べき」という意見が出されました。
太田氏からは「答えはお客様の中にある。それをどうやって掘り出すか?ということが大事かと思う。ディスカッションを聞かせてもらって、やはり"お客様から始まっている"と改めて思った」、田邊氏からは「生活者という捉え方が難しい。生活者と言ってしまった時点で、思い込みや勝手なルールができてしまうのでは?生活者の内、外という視点を持つことが重要では?」と、それぞれコメントいただきました。
■3rdテーマ: 「リサーチは誰のもの? 何のためのもの?」 田邊氏
参加者からは「自分のもの。自分が確信をもつためのもの」といった意見や、「安心材料を得るためのものではなく、他部門の方にインスピレーションを与えるべきもの」、「誰のもでもない。活動をする企業、意見が言えるユーザー、みんなのもの」といった意見が出されました。
田邊氏からは「簡単に答えが出るものではない。皆さんにはモヤモヤした気持ちで帰ってほしい」というコメントがありました。
締めの言葉として、原氏と太田氏から以下のようなコメントをいただきました。
原氏 「生活者行動研究所の目的は、もともとユーザーをしっかり見ていこうということだったのに、いつの間にか"生活者"として丸めて他部署に伝えることが目的になっていないか?初心忘るべからず、と改めて思えて良かった」
太田氏 「リサーチには新しい発見を伴う。リサーチを行う人、受けてもらう人が対峙するのではなく、それぞれにとって自分自身を見直す発見があり、"いいこと"が起こっていけば良いと思う」
参加者の皆さんの熱気あるディスカッションで、盛り上がった2時間半でした。
当日、mctのメンバーも各テーブルのディスカッションに参加させていただきましたが、皆さんの発言から感じられたことは、「従来のリサーチの枠組みでは解決できない問題」が増えていて、「突破できないジレンマ」を感じておられるのかな?ということでした。
第1回目にお招きした早稲田大学ビジネススクール・樋原伸彦准教授のテーマ『オープンイノベーション』、第2回目にお招きした慶応大学経済学部の武山政直教授のテーマであった『サービスデザイン』においても感じたことでしたが、「突破できないジレンマ」の解決策の一つとして、Convivial Salonの企画背景にもある[Co-Creation/共創]への期待が、高まっているようにも思えました。
ユーザーを"顧客経験のエキスパート"として招き入れ、参加者全員の創造力を使って課題発見・課題解決に向き合う手法によって、参加者の皆さんのジレンマも吹き飛んでしまうのでは? そのような機運を感じずにはいられない夜でした。

Convivial Salonでは今後も経営やマーケティング、デザインといった様々な分野のテーマを取り上げながら定期的に開催していく予定です。
○ビジネステーマについて熱く議論したい人
○自社の課題解決の答えを社外に求める人
○お酒を酌み交わしながら気軽に交流したい人
○終業後の時間を有意義に使いたいという人
○学習や成長の機会を求める人
そういった方々のご参加をお待ちしております。ぜひ今後もご期待ください。

- Shuichi Jouriku株式会社mct
エクスペリエンスデザイナー/エスノグラファー