2023.10.10
Blog|資生堂様とのデザインスプリント ~「美活ジム」の初期アイデアが形になるまで~
R&D部門の社員を対象とした新規アイデアの提案制度を実施していた資生堂様。以前mctのデザインスプリントプラグラムで、第一関門を通過したアイデアをブラッシュアップするお手伝いをさせていただきました。
その後、チームの方々のご活躍により、更なる関門を次々と突破したアイデア「S/PARK Studio 美活ジム(以下美活ジム)」がイベントという形で実現されたという嬉しいニュースを聞き、この度取材させていただきました。
出典:美活ジム公式サイト https://sites.google.com/view/bikatsugym/
企業において新規アイデアや新規事業の創出を目的としたプログラムは、近年よく見かけるものの、実際に事業に発展するものに出会うことは多くありません。
今回アイデアの実現に辿り着いた秘訣をお聞きしたので、ご紹介したいと思います。
<アイデア実現のポイント>
・チームメンバー全員が情熱を持ち、「やりたい!」という気持ちが強かった
・社内でもフィードバックをもらったり、イベントをプロトタイピングできる環境があった
・リソースを効果的に活用し、まずは自分たちにできることを実現
<mctとのデザインスプリントで良かったポイント>
・外部からの視点を入れることで、アイデアをシャープにできた
・漠然としたアイデアをビジュアル化によって、メンバー間で共有・議論しやすくなった
・インタビューで直接ユーザーの声を聞き、リアルにイメージできるようになった
・短期集中型でコンセプトを深掘りし煮詰められた
取材にご協力いただいたのは、株式会社資生堂の樋口様(本プロジェクトのチームリーダー)と鈴木様、福田様、堀様です。
1.プロジェクトの推進と成功の秘訣とは
資生堂様では、R&D部門において研究者起案でのビジネスアイデアの提案・実現の機会を提供するプログラムを実施されていました。弊社がプログラムから出てきたアイデアをブラッシュアップするお手伝いさせていただいたのは2019年でした。
新規アイデア創出とビジネスへの展開は、様々な企業で取り組みがされていることと思います。その中で、アイデアを発想する機会はあるものの、プロジェクトとして前に進んでいかない、というのを目や耳にする機会も多いのではないでしょうか。
資生堂の皆様も、本業がある中でこのプロジェクトの業務を進めていくのには苦労もあったようです。そのような状況下で、このプロジェクトが成功した秘訣をお聞きしました。
・チームメンバー全員が情熱を持ち、「やりたい!」という気持ちが強かった
樋口様:「今回良かったのは、メンバーみんながやりたい気持ちが強かった、というのがありました。誰か一人が頑張るというより、みんなが自発的にがんばっていたので、負荷が一人にかかり過ぎるということがありませんでした。また、トップダウンではないので、自分たちのいいと思ったものを自分たちで承認を取りながら進められる、やりたい方向性を保てた、というのがモチベーションを保ちながらできたポイントかなと思います。」
鈴木様:「樋口さんのような『絶対やる!』という情熱係がいるのがよかったです。」
樋口様:「最初は堀さんと『ときめく場所をつくりたいね』という話をしていたんです。」
堀様:「そのタネみたいなところから、具体的に動き出したのはちゃんとメンバーがついてから。樋口さんが、何があっても絶対前に進めるんだ、と情熱を持ってやっていました。メンバーの異動などもある中、ローンチまで辿り着けたのは、弊社の中でも珍しいケースだと思います。一丸となってやってきたからかなと思います。」
・社内でもフィードバックをもらったり、イベントをプロトタイピングできる環境があった
福田様:「コンセプトはぶれずにやってきたのですが、発信するメソッドに対して独自性があるのか確認するようにとお達しがあって、テストを挟んだんです。こういうメソッドを毎日やったらどのような変化があるのかを確認して、自信を持って、こういう変化があります、というデータをプラスしました。」
樋口様:「テストにご協力いただくユーザーさんにきていただいて、レッスンを受けてもらってどうだったか、あとは1ヶ月間週に一回来てもらって、おうちでもやってもらってどうだったか、そして、一ヶ月でどんな変化があるのか見てみました。」
鈴木様:「笑顔測定のためのアプリもできました。」
福田様:「タブレット端末を用いて笑顔度が測定できるアプリで、一般公開はまだしていないので、美活ジムのiPadにのみダウンロードされていて、会場に来ると使えるという状況です。」
鈴木様:「テストの前には、社内の人を20人くらい集めて、紙に興味を持ったところなどにペンで色をつけてもらったりして、コンセプトチェックもしました。」
・リソースを効果的に活用し、まずは自分たちにできることを実現
鈴木様:「最終的なビジネスを作り上げてからではなく、都市型の研究所という場を活用して、研究員がお客さまと直接接する場づくりから、小さく始めたから世に出せたというのがあります。」
樋口様:「まずは、自分たちができることを、とやりました。いい上司もついてくれました。私たちはもう少し検証したほうがいいかなと思っていたのですが、『まずはやってみようか』と一言いってくれる上司がいてバックアップしてくれたのも一つ大きな要因としてありました。」
2.資生堂様とのデザインスプリントプロジェクトについて
弊社メンバーが一次審査の審査員を担当したこともあり、通過したアイデアをデザインスプリントで検証したい、というお話をいただきました。コンセプトはあるものの、まだコアなMVP(※1)が定まっていないので定めたい、顧客の反応を聞きたいというご要望をいただき、mctがデザインスプリントプロジェクトという形で、プロジェクトチームを支援させていただくことになりました。
※1 MVP=Minimum Viable Product(実用最小限の製品)。初期の顧客を満足させ、将来の製品開発に役立つ有効なフィードバックや実証を得られる機能を備えた製品のバージョンを指します。
mctのDay1~5のデザインスプリントプロセス
デザインスプリントは、Google Venturesによって開発された、デザイン思考のベースとなるプロセスを素早く回すというメソッドです。オリジナルは5日間の集中的なプログラムですが、クライアントの方々も丸一週間予定を確保することは難しいため、弊社ではそのエッセンスを取り入れながらも各ステップの間隔を開け、2〜3ヶ月のプロジェクトとすることが多いです。とは言っても、期間を決め、集中してモチベーションを保ちながら推進することを心掛けています。
デザインスプリントのプロセス
資生堂様とのデザインスプリントでは、上の図のような5つのステップでアイデアをブラッシュアップするお手伝いをさせていただきました。
デザインスプリントDAY2の様子
資生堂のプロジェクトメンバーの皆様からいただいた感想もご紹介します。
・外部からの視点を入れることで、アイデアをシャープにできた
堀様:「自分たちでやっていると、どうしても今ある知識だけになってしまうし、いくら話し合っても凝り固まってしまうのが、他の調査の経験も豊富なプロの視点で見てもらって、短い期間でぎゅーっと絞れていったのがよかったです。美活ジム自体が壮大なテーマで、あれもやりたい、これもやりたい、だったので、絞っていくためにいてくれたのがよかったです。」
鈴木様:「研究所にいると、何が一般的に面白いのかわからなくなってくる人もいると思うんですが、特定の研究について広げてくれたりすると、『こういうのって面白いんだ』と気付きを得られるので、興味を持って広げてくれるのがいいと思いました。」
・漠然としたアイデアをビジュアル化によって、メンバー間で共有・議論しやすくなった
樋口様:「私たちの考えていたことをより深めてくれたと思います。絵を使ってイメージを作ったりして、私たちもディスカッションできたので。」
福田様:「絵にして進めてくれたやり方がすごくよかったと思います。今でもその絵は元になっていて、まだまだ社内の資料で使わせていただいていています。具体的になって、チームメンバーの間でも共通の認識が持てるし、進め方がよかったです。」
鈴木様:「ロゴ(※2)も私たちのイメージを伝えるためには効果的でした。」
堀様:「自分たちの中で話すにしても、お客さんに話すにしても、ビジュアルイメージっていかに強いかというのは気づきになりました。」
※2 現在のロゴとは異なります。
・インタビューで直接ユーザーの声を聞き、リアルにイメージできるようになった
鈴木様:「4名の方に実際にお話を伺って、ターゲットとなる30何歳の女性ってこういう感じって頭の中にイメージがあったのですが、あまり具体的ではなくて、そういう人に実際に会って深くお話を聞いたのが、実際にコンセプトを作る時も、その方を思い浮かべながらできたのがよかったです。」
・短期集中型でコンセプトを深掘りし煮詰められた
鈴木様:「合宿みたいに短期集中でやったのがよかったと思います。1日缶詰になってそのことしか考えないでいると、よりコアな部分に迫れるというのがよかったです。」
福田様:「短期集中だからこそ、その時に深く考えられました。そういう風に考えたことって、その後なかなかぶれなかった。」
デザインスプリントの醍醐味である、「アイデアをどんどんプロトタイピングで具体化しながらブラッシュアップし、実際にユーザーにアイデアを評価してもらう」というあたりを実際に体験し、良さを感じていただけたということでよかったです。缶詰になる時間や場を作ってアイデアを凝縮させていけたのは、私たちにとっても濃密でいい経験でした。
3.「美活ジム」イベントについて
資生堂研究所発!肌と表情のための特別プログラム『S/PARK Studio 美活ジム』
出典:Peatix https://peatix.com/event/1660475/
見事今回イベントとして実現したアイデア「美活ジム」は、資生堂研究員が開発した研究結果に基づく肌と表情のためのプログラムです。独自のアプリケーションを使って今の自分の状態を知ることから始まり、講師である資生堂研究員や美容のプロであるビューティーコンサルタントが、肌や表情のこと、お家でも続けられるセルフメソッドをレクチャーしてくれる、という今までにない内容です。
化粧品ブランドとして馴染みのある資生堂さんですが、そこの社員や研究員の方々と直接お話できる、ましてや研究内容に基づいた美容のことを教えていただける機会はそうそうないと思います。
まずは、2020/10/31 (土)に2回、そして、2020/12/26 (土)に2回、計約40名の方がこれまでに参加されたということです。弊社の池田、ソレイムも12/26の回を見学をさせていただきました。
「S/PARK Studio 美活ジム」
会場は、最先端の研究施設である「資生堂グローバルイノベーションセンター S/PARK」の低層階にある美の複合施設でした。コロナ対策として、イベントは開放的な空間でソーシャルディスタンスをとりながらの実施でした。予め各人に用意されていたiPadでレッスン前と後の笑顔を撮影・分析したり、テーマ(12/26の回は温活)に沿った自分でできる様々な美容法が2人の講師から紹介されていました。プロジェクトでご一緒させていただいた鈴木様がその講師内の一人でした。参加者の方々が非常に真剣に取り組んでいたのが印象的でした。
初期にお手伝いさせていただいたアイデアがこのように実現されているのを実際に目の当たりにすることができて、とても嬉しかったです。
プロジェクトメンバーの皆様は、今後も年に4〜5回、このようなイベントを継続開催を計画しており、さらに活動の幅を広げていくということですので、とても楽しみにしながら応援させていただきたいと思っております。
オンラインで完結するプロジェクトも実施可能です。
ご興味がある方はぜひお声掛けください。
取材先: 株式会社資生堂 樋口さま、鈴木さま、福田さま、堀さま
取材: ソレイム、池田、川合
どうもありがとうございました。
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