2018年11月16日にCHORDxxCODEのDMNワークショッププレセミナー「ラポトーシス:モノの死の在り方をデザインする!」がインターナショナル・デザイン・リエゾンセンターで開催された。これは12月10日、17日に開催されるワークショップのプレセミナーで、ラポトーシスという新しい情報技術に関する解説をメインに催されたものだ。一見、難しいタイトルだが“モノにも生命のような自律性があってもよいのではないか”という気持ちを背景にしたライフサイクルに関する情報技術と言えばよいだろうか。その内容をレポートする。
発想の原点はおしゃべり
CHORDxxCODEは東京大学工学部に所属した女性たちで構成されたエンジニアリングチーム。そのコンセプトは、個別性、儚さ、脆さを導入した工学的システムである。個人で研究するテーマは違うが、彼女たちに共通することは、定量化しにくい感覚的なことをセンシングして、自律性のある入出力インターフェイスを作ることである。
おしゃべりがCHORDxxCODEの重要なメソッド。テーマに関するおしゃべりをすることで企画が生まれ、そこからハードウェアやソフトウェアを実際に制作する。自主開発もあれば、企業とのコラボもあり、ときには日本バーチャルリアリティ学会などの学会誌に寄稿することもある。
興味深いのは彼女たちのおしゃべりを聞きたいという企業があること。彼女たちにとって、おしゃべりは発想の源泉であり、設計制作にもっていくための要となっている。おしゃべりを起点にして、太陽光発電で発光する宝石「Solar Reactive jewelry」、ドライフルーツで文字などを描く「Fruit Plotter」などを自主開発して展示会で発表してきた。
自分の服が去って行く感覚
今、彼女たちが取り組んでいるのはラポトーシス(rapoptosis)。このテーマは、1つの細胞が全体の利益のために自死するアポトーシス(apoptosis)という生命現象から生まれた。ラポトーシスは彼女たちの造語で、意味するところは「モノが潜在的な存在価値を自ら判断し使用者と存在価値の相互認識を行った後に主体的に去り(積極的な自死:apoptosis)、存在場所を変えて存続する(再生:renatusu)仕組み」である。モノが死んで捨てられるだけでは地球環境的によくないので、次の使用者か製造者のもとへ行くことが望まれるということだ。
ラポトーシスの今回のプロトタイプは、1年以上使われていない服が、使用者にtwitterで「去ってもよいですか」と聞いて、使用者が「いいよ」と許可をすれば、その服がハンガーから落ちて、次の使用者のもとへ行く、というものだ。情報処理学会インタラクション2018では、服がハンガーから落ちるラポトーシスのシステムを展示して大きな反響があった。
CHORDxxCODEの橋田朋子氏は「今回のワークショップは、試着室なども用意してシアター型スペキュラティブデザインメソッドという形で行います。そこで、自分の服が落ちるときの感覚を味わっていただきたい」と体験の重要性を語る。あたかも服が生命を持っているかのように、自分の意志でハンガーから落ちて、次の使用者のもとへ旅立っていく様子を見れば、長年、一緒に過ごした服との思い出が浮かぶことだろう。それはあたかも、一度好きになった恋人との別れのようでもある。
モノに生命を宿す情報技術
ラポトーシスは、モノと人間との関係性を見直すための情報技術と言えるかもしれない。そこには価格、サイズなどの数値では表せない、思い出などの“潜在的存在価値”がある。その潜在的存在価値をいかに表現して、人に伝えるかがラポトーシスの中核的技術になる。
CHORDxxCODEには、儚い工学的なモノを作りたいと意志があり、儚いということは死と関連すると考えたことからラポトーシスは始まっている。死ということは、生命を意味しており、そこには当然、限られた時間という時間性がある。ラポトーシスが生まれた背景には、モノに生命が宿るというような日本的な思考があるのかもしれない。
利他と共感力
CHORDxxCODEの話を聞きながら、森川博之氏のワークショップで話題になったNTTドコモの「アグリガール」のことを思い出した。アグリガールは、NTTドコモのデジタル技術と農業を結びつけるカタリスト。農業生産者、ベンチャー企業、JA、自治体、NTTドコモを結びつけて、新しい農業ビジネスを次々と成功させている。野中郁次郎氏によればアグリガールのキーワードは「利他と共感力」。まさに今回のラポトーシスと共通するところがある。女性的感性こそが時代を牽引する力になるのではないかと感じたプレセミナーであった。
12月10日、17日には、ラポトーシスのワークショップが開催される。自分の服がハンガーから落ちるところを見て、何を感じるかが楽しみである。
(ライター、中村文雄)
ワークショップレポート(PDF)はこちらからダウンロードできます。