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6 02, 2016 06:04 刻々と変化する「デザイン」を捉える『Design in Tech』レポート

刻々と変化する「デザイン」を捉える『Design in Tech』レポート

シリコンバレーで有名なデザイナーのひとりが、ジョン前田氏だ。前田氏は、もともとソフトウェア・エンジニアの教育を受けたが、後にグラフィック・デザイナーになり、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの教授を務めた後、ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)の学長に就任した。ここまでは、デザイナーとしても輝かしい職歴だが、その後の転身には誰もが驚いた。シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストになったのだ。

2014年に、同氏がシリコンバレーでも有数のベンチャー・キャピタル会社として知られるKPCB(クライナー・パーキンズ・コーフィールド・バイヤーズ)のデザイナー・パートナーとして就任したことは、テクノロジー業界でのデザインの重要性が無視できなくなってきたことを示していた。すでにテクノロジー企業としてアップルはデザインの面でも抜き出ていたが、それ以外でもスマートフォンのデザイン性、アプリの美しさや使いやすさなど、デザインがテクノロジーの中で占める度合いが非常に大きくなっていたのだ。

KPCBに移った後、前田氏はポートフォリオ企業にデザインに関するアドバイスを行ったり、デザイナーで起業できる人材を探したりといった仕事を行ってきたが、同時にあるプロジェクトをスタートさせた。それは『Design in Tech』というリサーチである。『Design in Tech』は、現在のテクノロジー業界におけるデザインの重要性や意味を、デザイナーの数、デザイン会社の買収数、デザイナーが創業したスタートアップ数などで示し、さらに「デザイン」のあり方がどう変化しているのか、それによってデザイン教育はどう変化すべきかを分析する。

昨年第1回レポートが発表され、先頃第2回の2016年度版が公開されている。そこからいくつかのポイントを拾ってみよう。まず、デザイナーはテクノロジー企業に多く雇われるだけではなく、前田氏自身のようにベンチャー・キャピタル会社でデザイン・パートナーや投資パートナーとして在籍するケースが多くなった。すでに30人を超えるデザイナーが投資側にいる。

従来のデザインと現在のデザインの違いについては、こんな比較を行っている。対象とするユーザー(従来は数100万人vs.現在は最大数億人)、製品完成までの時間(数週間から数ヶ月vs.インターネットで断続的に改訂)、完璧度(達成できるvs.常に進化し続ける)、デザイナーの自信度(絶対的vs.高いがテストやリサーチの分析にオープンに対処する)などだ。デザイナーとして求められる資質が大きく変化しているのが、これでわかる。

デザイナーにとって、プログラミングを理解するのが必要になったということも、デザイナーへのアンケートの結果から伝えている。370人のデザイナーに尋ねたところ、「必要」と答えたのは93.5%にも上った。プログラミングができることで、ただの上辺だけのデザインではなく、ユーザー・インターフェイスやエクスペリエンスといった深みのある部分までデザインの考え方を適用することができるからだ。

また、従来のデザインは、デザイン思考としてツールになった後、今や無数のユーザーにリアルタイムでデザインを行う「コンピューテーショナル・デザイン」が登場しているという。さらに、デザインはユーザーに対するシンパシー(共感)や多様性を内包したものが評価されるという。これも、これまでの「カッコいいデザイン」といった単純な軸が通用しなくなることを示唆するものと言える。

同じ「デザイン」ということばが使われているが、その中味や方法論、位置づけは急速に変化している。デザイナーもそこに敏感でなければ、ユーザーに通じるデザインができなくなっているのだ。『Design in Tech』レポートのメッセージは無視できない。

Noriko Takiguchiフリージャーナリスト

【タグ】 デザイン思考,

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