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Sep 04, 2017 03:12 海外のヘルスケアエクスペリエンスは院外に拡張している「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.4

アクセンチュアの最新のレポートによると、テクノロジー企業の85%とベンチャーキャピタル(VC)企業の77%が、医療の破壊的イノベーションを最優先課題の1つと考えているようです。私たちの周りには多くのビジネスチャンスがあり、すべての企業がこのビジネスチャンスを生かして企業業績をより良いものにしようとしています。どこにブルーオーシャンが在り、自分たちの強みを生かせるかを考えていることと思います。ウェアラブルやセンサーの普及はすでに医療業界において影響力を持ちつつあり、医療用IoT市場は2020年には1,700億ドルと見積もられています。またHIMSSは2019年には87%の医療機関が何らかのIoT機器の導入をしているとレポートを出しています。その中でよく出てくるキーワードがpatient experienceです。なぜ今このキーワードが注目されているかを考えてみましょう。

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前回、「ICT」という言葉に違和感を感じる話をしましたが、現在、医療機関のIT化は医療機関内のIT化、また、介護の世界では介護従事者と医療従事者との連携のシステム化などが論じられています。これは提供者側のシステム化に他なりません。民間企業なら20世紀には企業内システム化は導入済みです。言葉を変えると、IT化をしないと競争に負けてしまい、生き残っていないからです。一方、医療の世界ではほぼ競争が行われず無理にIT化をしてもその投資に見合うだけの見返りが期待できませんでした。ところが、ここにきて院内のシステム化がほぼ一巡し、いよいよ院外のシステム化が始まろうとしているわけです。おそらく他の産業から20年以上は遅れており、まさに未開拓の市場であり、IT企業や投資家がこの耕されていない土地に一獲千金を狙ってきているわけです。特にアメリカでは、医療機関もサービス産業の一つです。一般の企業がどこの保険サービスと契約するかは、他の産業と同様に魅力的なサービスを提示できるかにかかってきています。では実際に世の中でどのようなことが起こっているかご紹介しましょう。

 

まず最初にご紹介するのはMicrosoft社の「Health Future Vision」です。

 

https://youtu.be/C4LbAUa4ZwY

この動画が発表された時はまだiPhoneが発表される前だったと記憶しています。これを見て、いつかはこういう世界になるのだろうかと思ったものです。が、今見返してみると、ほぼ実現されつつあることに驚きを隠せません。

 

次にご紹介するのは英国のSense.lyです。

 

 

https://youtu.be/AU1nGpOmZpQ?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw 

英国のNHS(国民保健サービス)は相当な財政危機に陥っています。ご存知のように英国ではかかりつけ医が決まっており、そこで受診する限り医療費は原則無料です。日本でも以前高齢者の医療費が無料だった頃に差し迫った疾病がないにもかかわらず医療機関を受診する人が多く、医療費を圧迫してきました。同様のことが英国でも起こっています。Sense.ly社はアメリカの企業ですが、Sensely appとNHSgが共同で実証実験をしているのがこのサービスです。NHS(国民保健サービス)によりトライアルされている sense.lyは自然な会話で患者とドクターを結ぶバーチャル・ナースです。名前はoliviaです。彼女は365日、24時間患者に対応することができます。  

特徴として 
1 症状をチェックして、必要なら人間の看護師に連絡する
2 薬の管理と処方指導 
3 心不全、糖尿病、喘息、COPDなどの慢性疾患の管理 
4 自己ケアの指導 
5 診察のスケジューリング 
6 薬局へ行くためのアクセス方法の案内や他の医療機関(眼科や歯科など)への紹介 
この導入によって無駄に999にコールすることなく、医療費を削減できるのではないかと期待されています。

 

次にご紹介するのはmycahealth社です。この企業もiPhoneが登場する前からBlackBerryなどで医師と患者がtelemedicineができるシステムを提供してきていました。この動画は、ユーザーが時間的ロスを如何に減らすことができるかを面白おかしく紹介しています。

 

 

https://youtu.be/vH9cwKKEpaQ?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw 

アメリカでは日本のように好きな医療機関にかかることができず、契約している指定された医療機関を受診しなければなりません。当然、このような時間的ロスが発生します。この動画をみた経営者は、当然従業員の生産性の問題からこのようなtelemedicineを提供している医療機関と提携したいと考えるでしょう。

 

そしてこのmycahealth社のシステムを導入している企業がQualcomm社のHealth Centerです。

 


https://youtu.be/Dve4eZLynig?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw
 

 

Qualcommの従業員は診察室に行かなくてもネットでいつでも繋がることができるようになっています。

 

アメリカのような国土の広い国では、患者が適切な医師に診察してもらうことは地理的に難しいことで、patient experienceが非常に低くなっています。これを解決するテクノロジーがtelemedicineです。telemedicineはすでにインドやブラジルなど国土の広い国々で普及し始めています。そこでご紹介するのはMercyです。セントルイスに拠点を置くMercyは200年の歴史を持ち、30病院を配する医療機関です。このMercyが2015年に「Mercy virtual care center」を開設しました。現在のところ世界最大規模のバーチャル病院ということになります。

 

 

https://youtu.be/jAQuEZUdB-A

Mercy virtual care centerには患者はいません。関係している病院や患者の自宅とネットワークで繋がっており、患者の状態を常時見守っています。つまり、必ずしもここ一カ所から診療が行われるのではなく、バーチャル・ケアセンターを核にして、医師と患者を広いネットワークで結ぶという発想です。

 

さて、まだ実現はしていませんが実に夢のあるプロジェクトが、Xプライズ財団の「Qualcomm Tricorder X PRIZE 」です。

http://tricorder.xprize.org

Xプライズ財団では様々な分野でブレークスルーを起こす挑戦的な課題のコンペを実施しています。「Qualcomm Tricorder X PRIZE 」はその一つです。「Tricorder」とは、アメリカの人気テレビ番組「スタートレック」に出てくる非侵襲性のバイオアナライザーです。非侵襲性のアナライザーは患者にとって負担がなく、多くの科学者がこの実現を夢見ています。今回のコンペでもこのTricorderを目指して行われました。
今回台湾のDynamical Biomarkers Groupが優勝しました。

 

 

https://youtu.be/rdpdWJdx5CE?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw

 

今回ご紹介する動画はほんの一部です。世界では多くの革新的テクノロジーが生まれつつあります。ただし、ここで注意を要するのは、すべての医療機関がこの先進的なテクノロジーを導入できる体力があるかというとまだまだでしょう。

 

最後に現実を示す動画をご紹介します。Allscripts社のEHRのシステムです。

 

 

https://youtu.be/bOM_GadifJg

現実はまだまだというところでしょうか?

 

in the future

最後に未来の医療の姿はどうなっているのでしょうか?未来は未来の人に聞いてみましょう。この動画は今年の世界経済フォーラムでPhilipsが紹介した子供たちへのインタビューです。

 

 

https://youtu.be/tKtbR68dhIg?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw

 

Hiroshi Yamazaki山崎 博史 株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表 国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。 twitter @gennesaretcare

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May 29, 2017 03:54 日本の医療ICTは周回遅れ「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.3

昨年の暮れに塩崎厚生労働大臣の記者会見で、大臣がICTという言葉を使われた時に、非常に違和感を感じました。これは、第2回未来投資会議で「医療・介護分野に置けるICT活用」の発表を受けてのことだと思うのですが、それ以上にこの資料の中を見ると、「ICTAI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト」という項目があり、さらに目眩がしそうになったことは言うまでもありません。その後、医療関連ではICTという言葉が頻繁に出てくることに気がつきました。先月ある大手電機メーカーの医療関連の催しに出向いた際も、ICTという言葉が頻繁に出てきましたし、講演でもICTという言葉が出てきました。

この違和感は、ICTという言葉、概念が1990年代に使われてきたものであり、それはまさに第3次産業革命の後半に出てきたものです。今更説明する必要もありませんが、定義としておさらいしてみるとITは情報技術そのものを指すものであるのに対して、ICTはその利活用を指していると言われています。日本では「e-Japan戦略」が策定されたのが2001年です。その後、2005年には総務省の「IT政策大綱」が「ICT政策大綱」に改称されて一般的ICTが広まった経緯があります。その本質はITを利活用することによる、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーションです。では、第4次産業革命はいつから始まったか?というとドイツが2011年に「Industry 4.0」を産業改革プロジェクトとしてスタートしたことによると一般的に認識されています。この第4次産業革命の本質はAIIoTを活用した産業構造の変革です。特に製造現場におけるAIを使っての製造工程の管理などがその典型例でしょう。

話を戻して、私が抱く違和感というのは、医療産業を含めた医療業界では、第3次産業革命から第4次産業革命までの長い期間を跨いで変革が起こっているということです。実際のところ、未だ、電子カルテも導入していない医療機関は非常に多く、紙のカルテを使っている現場と、次回詳しくご紹介しますが、英国のNHSNational Health Service)がテスト導入しているAIを使った看護サービスとその差は歴然としています。一般の業種であれば、同じタイミングで技術革新が進んでいき、技術革新に乗り遅れた企業は市場から消えていくしかありません。ところが、医療業界では、どれほど技術革新に乗り遅れても困ることがありません。

よく医療業界はIT化が遅れていると言われますが、乗り遅れても問題はなかったということに起因するものと思われます。具体的な例をご紹介しましょう。皆さんも気づいておられることと思いますが、大抵の医療機関、特に診療所では、未だ現金のみの支払いです。しかも支払いの段階になるまで幾らかかるか分からないので、患者の立場に立てば、クレジットカードが利用できたらいいのにと思っている人は多いと思います。また、私の知っている医師は、過去に遡ってカルテを見ても手書きなら、その時の状況が思い出される、だから電子カルテは不要であると仰っておられます。さらに、職員の給与が現金払いという所も未だあります。

ただし、この傾向が続くことはないでしょう。その一つに、医療機関間のネットワーク化が進むことがあります。2014年から日本医師会が電子認証局をスタートさせており、また、先日(4月17日)に政府の未来投資会議にて安倍首相自ら来年4月の診療報酬改定において遠隔医療に対して評価をする(診療点数をつける)と明言しました。ネットワークに入れない場合、患者数が減ることになります。例えば、がん拠点病院で乳がんの手術をした後、自宅近くの乳がん専門クリニックで経過を診てもらう場合、拠点病院は患者データをやりとりできるクリニックを推薦することは想像に難くないでしょう。二つ目は前回お話ししたように、健康、医療、介護に垣根がなくなってきてシームレスなサービスが提供できなければ患者が来なくなる可能性があります。例えば、スポーツクラブでの運動量をクリニックでの参考資料にしたりすることも今後起こってきます。三つ目は、おっとこれはここに書くには微妙な問題があるので機会があればお話しすることにしましょう。

では、現在の医療業界でのテクノロジーのトレンドキーワードは何か?この2月にフロリダ州オーランドで行われたHIMSS2017Healthcare Information and Management Systems Society)で話題になったキーワードを最後にあげておきましょう。それは、IoT , telemedicine , AI , interoperability , value-based  care ,  population health , Machine learning , blockchain , patient experience , cybersecurity , AR , VR などなどです。次回は実際の事例をご紹介しながらこれらのテクノロジーを見てみましょう。

 


政策の影響を大きく受ける医療業界では、経営判断をする上で政治動向を捉えることが重要でした。しかし、山崎さんが語っておられるように、政治動向さえ押さえておけば適切な経営判断ができる時代ではありません。これからは、政治、技術、経済、社会が複雑に絡み合って市場が大きく変わっていくことが想定されます。不確実性の高い状況での経営判断を助けてくれるツールがシナリオプランニングです。この手法では、市場にインパクトを与えるトレンドを、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Tecnology)の4つの側面から洗い出し、それぞれが持つインパクトの大きさと不確実性をベースに起こり得る複数の未来を描き出していきます。いま医療業界では、深い外部環境分析を踏まえて機会や脅威を適切に捉えることが不可欠になっているように思います。(mct/白根)


 

 

Hiroshi Yamazaki山崎 博史 株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表 国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。 twitter @gennesaretcare

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May 17, 2017 10:00 見えているのに見ようとしない医療と健康の分断「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.2

このコラムはHealthcareを制度や今後のITに絡ませて書く予定ですが、その前に、もう少し全体を見渡すために前回同様、街を俯瞰的に見ますので、ご了承ください。

ニュータウンに限らず街を見渡してみると、ランニングをしている人をたくさん見かけるようになりました。若い人もいれば、年配の人もいます。また、郊外であれば、歩く会で多くの人がリュックを担いで歩いておられます。駅前にはフィットネスクラブがあります。私は鎌倉近辺に住んでいて、天気の良い日は鎌倉の山を登りますが、こちらにも多くのハイカーが汗をかきながら自然を満喫されています。

フィットネス経営情報誌を発行している(株)クラブビジネスジャパンの資料によると、2010年に3,474施設だったのが、2015年には4,661施設と増えています。また60歳以上の会員数が増えているのも特徴的です。実際に、私もあるフィットネスクラブに入っていますが、昼間はほとんどがシニア世代です。

また、市民マラソンの規模も非常に多くなっていて、全国で2,000以上のイベントが行われていて、飽和状態になっているそうです。走るのではなく、歩くを主眼に置いたウォーキングイベントもほぼ毎日、日本のどこかで行われています。私の友人はヨガを楽しんでおり、室内以外にも公園や浜辺でやはり多くのヨガファンが集っています。おそらくこれほど健康のために運動をしている人が多いのは過去になかったのではないかと思います。特に、ランニングは東京マラソンが2007年に始まってから、「観るスポーツ」ではなく、「自分で行うスポーツ」に変化していき、これが他のスポーツにも広まっている感があります。

一方、高齢者を送迎するデイサービスの車も非常に多く見かけるようになりました。その中で、要介護度が低い状態でなるべく自身の身体機能を維持するためにリハビリテーションを行っています。このリハビリテーションには理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの資格を持った方々が、サポートをしています。理学療法士は、病気や事故などで身体に障害や不自由さを抱える人、また高齢により身体機能の衰えた人などに対して、医師の指示の下でリハビリテーションを行い、運動能力の回復を援助する仕事です。作業療法士は、病気やケガなどが原因で身体に障害や不自由さを抱える人に対して、医師の指示の下でリハビリテーションを行い、日常生活に必要な能力を高める訓練や指導をする仕事です。そして、言語聴覚士は言語障害がおこってコミュニケーションが取りにくい人などをサポートする仕事です。つまり、リハビリテーションには、歩く、走る以外に箸や茶碗を持つ、コミュニケーションが取れるように発声の訓練をするなど、様々な筋肉を元に戻すようなものがあるのが特徴です。

さて、視点を変えて、医療や介護という側面から見てみましょう。医療機関は、病気や怪我を負った人が訪れる場所です。介護事業所は介護を必要とする人が集まる場所です。実は、これはサービス提供者側から見た区分です。医師は受診に訪れた患者と初めて会って、検査をして患者のバイタル状態を知ります。そして治療を行い、病気が完治すればそれでこの患者との接点は無くなります。介護では、要介護状態を自治体の職員が面談して認定調査票を書き込んだ後に認定審査会で要介護度が決まって介護サービスが始まります。介護が功を奏して、自立できる状態に戻れる人もいれば、そのまま要介護度が上がっていき、亡くなられることもあります。どちらにせよ、医療機関も介護事業所もこれから必要とされるサービスであることは間違いありません。

では、これほど私たちが健康に気を遣っていても、病気になるときは病気になるし、介護も自分ではまだまだだと思っていても介護が必要となるのはどうしてでしょう。病気や介護に必要になった時にはプロフェッショナルなサービス提供者がいて、必要な指導や処置、サポートをしてくれます。しかし、健康な時は、身体に対するプロフェッショナルな提供者はいません。それは、私たちが生まれてから死ぬまで連続した一個体であり、バイタルデータも連続しているのに、サービス提供という側面から見ると、分断されてしまうことにあります。

私たちは、学校の健康診断、会社に入っても健康診断と頻繁に体の状態をチェックしています。そして個人でも体重計や血圧計などで体のチェックをしています、が、これらのデータを的確に診断、サポートする提供者が存在しないことにあります。もう一度述べますと、病気になって医療機関にかからない限り医師などのプロフェッショナルな助言、指導を受けることができないのです。では、みなさんどうしているかというと、ネットで健康情報を見て、素人判断するしかないわけです。ここに付け込んだのが一連のキュレーションサイトであると言っても良いでしょう。

最近のニュースでfitbitやjawboneなどのウェアラブルデバイスがパーソナルな提供から医師などの医療機関での使用を目指していると発表しています。これは先ほど述べてきた分断を連続したものにしようという動きです。健康な時からウェアラブルデバイスを使い、その時々で医師がサポートしていくという流れです。しかもその先には病院の機能さえも変えるイノベーションが起こると言われています。マウント・サイナイ・アイカーン医科大学の理事、エリック・シャド氏は、uberが自身が車を持たないビジネスモデルであることから、未来には現在の病院というものが無くなると予測しています。

私たちが医療ビジネスを考える場合、現在の提供者側からロジックで考えると非常に狭いビジネスモデルになるとともに、この先ビジネスモデルそのものが成り立たなくなる可能性があります。街を見渡し、私たちが生まれてから死ぬまでどのような生き方をしているか、私たち自身からビジネスモデルを考える必要があります。すでに、壁は取り除かれています。


業界の常識や慣習を受け入れるか、疑問を持って捉えるかで、取り組もうとする分断の大きさが変わってきます。業界の常識や慣習に従う限り、大きな分断=大きなイノベーションの機会を自分事として捉えることができません。大きな分断に取り組むには、業界の常識や慣習の枠を外し、自社が想定している製品やサービスの範囲を超えて、顧客が本当に求めていることに沿って体験全体を理解する必要があります。顧客のゴールをどのようなレベルで捉えるかが大きなポイントになってきます。
別のアプローチとして、いまは離れている業界と業界を重ねてみて、その重なりの中に顧客が本当に求めていることがないだろうか、という視点で強制的に発想するコンバージェンスマップも効果的です。(mct/白根)


 

Hiroshi Yamazaki山崎 博史 株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表 国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。 twitter @gennesaretcare

Apr 04, 2017 05:35 小売業の視点で医療機関を見てみると・・・「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.1

自宅近くのコンビニエンスストアがまた閉店しました。最初にスリーエフが1年ほど前、3ヶ月前にはローソンが、そしてファミリーマートが建て替えのために今は更地になっています。残ったセブンイレブンには、朝から入りきれないほどの車が入ってきて、レジはスーパーマーケットのように長蛇の列ができています。コンビニはこのような状況ですが、もう一点、おうちコープのような食材を玄関まで届けてくれるサービスも目にするようになってきました。高齢者にとってスーパーへ買い物に行っても、重たくて持って帰れないようなものは、このような宅配は重宝されているようです。まさに、小売業の群雄割拠がダイナミックに動いているのがよくわかる事例です。そしてこれが自由経済であり、企業は、利幅の少ない地区から撤退をして、利益が見込める地区を目指して移動していきます。

 

これに反して、地域に根ざした商店街や商店は、衰退の一途をたどっています。特に、住居と店舗が一体となったお店は、商店主が高齢になって商売を辞めても、店舗が住居の一部になっていて他の人に貸すことが困難になっています。また、営業を続けていても、住民のニーズを満たせないようならやはり客足は遠のき閉店に追い込まれることになります。さらに、大型スーパーが近郊に出店すると、初めは顧客を食い止めるために様々な取り組みを行いますが、大型スーパーは膨大な顧客データーを元に、よりニーズにマッチした商品を取り揃えて、顧客の関心を引きつけます。宅配サービスもコンビニも同様に顧客の関心を引きつける戦略を打ちつつ、周辺サービスへの展開も広げています。あえて、私が説明するまでもなく、日頃みなさんは目にしており、感じている事柄です。

 

実は医療機関も同様なことが言えます。昭和30年代から建設省が進めたニュータウン構想は、今や、全国津々浦々に2000ほどもニュータウンを造成してきました。いわゆる団塊の世代が社会人になって結婚して自宅を建て始めた頃です。ニュータウンに欠かせないのが、駅、バス、学校、市場、役所の窓口、警察など、そして医療機関です。ニュータウンの造成とともに若い医師が自宅兼診療所を開設し、地域の児童の健康管理から住民の病気への対応を行ってきました。このころの開業医は地域のニーズもたくさんあって、また、診療報酬も高くて一財産を築いた方も多いのですが、時代が流れてこれらの開業医も高齢になってしまって閉院してしまい、今や、ニュータウンには商店もないし、医療機関も少なくなった状態になっています。ニュータウンは非常に顕著な事例ですが、厚労省の資料によると、全国的に見ても、この10年ほど診療所数は横ばい状態にありますし、病院も含めた全医療機関数は減少傾向にあります。2025年に団塊の世代が後期高齢者になった時点から、医療機関の数は減っても増えることはないでしょう。

 

私は様々な業種の方々と話をすることがあります。今まで医療との接点がなかったような企業の人も医療ビジネスに関心を寄せています。ただし、その多くは、「病気になって医療機関に受診して、処方箋をもらって薬局で薬をもらう。または、入院して手術をして治す」というイメージが医療の現場と捉えている傾向があります。しかし、実際は今まで述べてきたような大きな視点から医療ビジネスを見ていかなければなりません。なぜ、このクリニックはこんなに人口が減っても、ここに居続けるのだろう?もっと患者が多い地区に引っ越した方が良いのに?と疑問を持つことが大事です。当然、医療制度を知っている人にとっては、こんな疑問を持つことは制度を知らなすぎると考えるでしょう。しかし、あえて、これから医療ビジネスを創出していくには、どっぷりと浸かってしまった経験値よりも疑問から出てくるアイデアの方が強いと思います。

 

さて、閉店したローソンの駐車場に、テナント募集の広告が大きく出ています。建物の大きさといい、駐車場の広さといい、私個人としは、3km離れたK病院がここに出先のクリニックを作って、在宅医療の拠点にすれば、この辺りの人たちのニーズに合うのにと思ってしまいますが、さて、何ができるでしょう。 

 


当たり前とされていること、変わりようがないと思われていることに疑問を持つのは簡単なことではありません。どうすれば当たり前とされている現状に対して疑問を持って見ることができるでしょうか。山崎さんが紐解いてくださっているように、他の業界と比較したり、現在に至る歴史的な推移を明らかにしたりするなど、複眼的な視点を持つことで、当たり前のように見えることが実は当たり前ではないかもしれない、という捉え方ができるようになります。複眼的視点を得るツールとして、mctでは、前者はアナロジーモデル、後者はエラマップ(年表)をご提供しています。自社の業界を野心的な視点で捉え直してイノベーションの機会を探索するときには、こういったツールが効果的です。(mct/白根)


 

Hiroshi Yamazaki山崎 博史 株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表 国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。 twitter @gennesaretcare

Dec 02, 2015 03:50 患者中心で考える「ヘルスケア・イノベーションセミナー」レポート

2015年10月30日金曜日、「ヘルスケア・イノベーションセミナー」を開催しました。医療業界の方だけではなく様々な業界の方に大勢ご参加いただき、ヘルスケア分野への関心の高さが伺われるセミナーとなりました。

 

■開催概要

2016年の米国ヘルスケア市場の市場規模予測は2.6兆円といわれています。これは2011年の実に1.5倍となる予測です。先進国を中心とした高齢化の進行、生活習慣病への関心の高まり、国の医療費の高騰などにより、ヘルスケアを取り巻く市場は急激に成長しています。そんな中、すでに米国を中心にヘルスケア分野での数々のイノベーション事例が生まれており、そのキーワードとなっているのが"患者中心"です。

 

しかし、単に患者中心で考え、患者を大切に扱うということだけではなく、患者自身が治療に積極的に参加し情報をシェアするということが"患者中心"のトレンドになっています。

 ミナー前半では今年4月にボストンで開催された「HEALTH EXPERIENCE REFACTORED CONFERENCE」のご報告として"患者中心"の考え方や、グローバルでの先進事例をご紹介しました。セミナー後半では患者ジャーニーマップを使ったワークショップを実施し、具体的なテーマを通して"患者中心"について考えを深めました。

 レポートでは、セミナー前半の「HEALTH EXPERIENCE REFACTORED CONFERENCE」のご報告内容を中心にお伝えします。

 

■スピーカー:カール・ケイのご紹介 

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カール・ケイは株式会社mctのコンサルタントで、国際ビジネス戦略、国際アライアンス、言語と文化の壁を克服するためのスケーラブル・ソリューション、顧客とともに目指す価値のコ・クリェーション、イノベーションのためのビジネスエスノグラフィーを専門にしています。また、外国人旅行者に対して、日本のユニークな文化に触れてもらうツアーを企画、販売するTOKYOWAYの主催もしています。https://tokyoway.jp/

 

■「HEALTH EXPERIENCE REFACTORED CONFERENCE」ご報告 3つの観点

カール・ケイが、以下の3つの観点からご報告しました。

1Things designers heard patients say

2Fit the tool to the step of patients' journey

3Where are the win-wins for patient and healthcare business?

 

1Things designers heard patients say

「患者の家族や患者自身が治療に参加しコントロールする」「患者を病人としてではなく疾患という個性を持つ一人の人間として扱う」「患者が自分の病気の経験をシェアする」といった米国でのトレンドを、最新事例を交えてご紹介しました。

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例えば、「患者を病人としてではなく疾患という個性を持つ一人の人間として扱う」ではインスリンポンプをアクセサリー感覚で付けられるようにしている「hanky pancreas」(http://hankypancreas.com/)や、「患者が自分の病気の経験をシェアする」では医師が診察時のノートを患者と共有する「open notes」(http://www.myopennotes.org/)というツールをご紹介しました。

参加者の方からは、「医師がノートを患者とシェアするということは、今の日本では考えられないが、非常に興味深い取り組みだ」といった意見が聞かれました。

 

2Fit the tool to the step of patients' journey

6つのステップの患者ジャーニーに沿って、それぞれのステップで患者がどのような感情を抱き、患者の状態や感情に寄り添うためにどのようなツールが提供されているか、具体的な事例を交えてご報告しました。 

Step.1  Having symptoms

 feeling worry, denial, obsession"will this go away on its own?"

Step.2  Seeking a diagnosis

 feeling worry, frustration- takes so long, which doctor to see

Step.3  Getting a diagnosis that you believe

 feeling shock when hearing the diagnosis"We've long known that once you give people bad news, they often don't remember half of what they're told after that,"

Step.4  Making sense of it & finding a plan

 feeling grieving for the future you imagined but lost; loneliness

Step.5  Optimizing and adjusting

 feeling found a doctor, feel on a path, a little more in control

Step.6  Living with it

 feeling The "New Normal" (depends partly on the illness)Finding the "silver lining"

例えば、「Step.2  Seeking a diagnosis」で患者がどのようなドクターに掛かるべきか長時間悩みフラストレーションを溜めているという状態に対して、米国のDana Farber病院では、医師の紹介ビデオをホームページで閲覧できるようにしているという事例を紹介しました。http://www.dana-farber.org/

 

 3Where are the win-wins for patient and healthcare business?

 "患者中心"は患者だけではなく、ヘルスケアビジネスを提供する側にとってもメリットがあることを以下の点からお伝えしました。

Better compliance- more sales, lower cost

Better outcomes

Fewer lawsuits

Access to more data, faster

Report by NHS in UK estimates that stronger patient engagement could lead to savings of nearly £2 billion by 2020-21, i.e. around 10 per cent of the NHS England target saving.

Doctors will still provide treatment, but they won't be doing very much diagnosing or monitoring; that will be done by patients going forward. 

例えば、先ほどご紹介した「open notes」というツールは、患者の治療に対する満足度を高めるだけではなく、医師が患者に伝えたことの記録を残すことによって医療訴訟のリスクを下げることにもつながります。

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患者ジャーニーマップ体験ワークショップ概要

後半は、希少疾患の子供を持つ母親をテーマに、母親のジャーニーマップを描くワークショップを体験していただきました。希少疾患の子供を持つ母親の気持ちは想像することも難しいですが、カスタマージャーニーマップを用いて感情の流れを捉えることにより、深く感情移入して積極的な意見交換ができました。参加者の方からは、「口ではこう言っていたけど、それって結局こう思っているんじゃないか?」や「男性として母親の気持ちを理解するのは難しい。」と言った意見が聞かれ "患者中心"を体感しながら考える、とてもよい機会になったと思います。

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「患者ジャーニーマップ」について詳しく知りたい、社内で実施したい方はお気軽にお問い合わせください。

また、来年4月にも「Improving health experiences through technology & design」というテーマで「HEALTH EXPERIENCE REFACTORED CONFERENCE」が開催される予定で、mctからはカール・ケイが参加します。次回も報告会を開催しますので、お楽しみに!

Shinpei Tsurumori株式会社mct エクスペリエンスデザイナー/ストラテジスト

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