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8 24, 2016 04:23 「デザイン・スプリント」-- デザイン思考をグーグル・ベンチャーズ流に改訂したら

「デザイン・スプリント」デザイン思考をグーグル・ベンチャーズ流に改訂したら

シリコンバレーのベンチャー・キャピタルの中でも、グーグル・ベンチャーズ(GV)はユニークな存在と言える。

まず、グーグル(現アルファベット)の企業内ベンチャー・キャピタルであるという点。シリコンバレーのベンチャー・キャピタルは歴史的には投資専門会社がほとんどで、今でも企業の投資部門は少数派だ。

それでいてGVは、後発でありながら今や有力な存在となり、また自社の事業には無関係な幅広いポートフォリオを持っている点も特異だろう。真に新しく、将来性のある技術やビジネスを見いだそうとしているようだ。

ちなみに、投資分野は消費者向けサービス、生命科学および医療、データおよびAI、企業向け、ロボットと分かれており、ウーバー、スラックなどよく知られたテクノロジー企業もあれば、ブルーボトル・コーヒーといった飲食業、メディウムなどのメディア企業も含まれている。

さて、GVはデザインに力を入れているのも、ユニークな点だ。この場合の「デザイン」というのは、GVのメンバーにデザイナーが数人含まれているということと、デザイン思考の方法論をGV流に改訂して、ポートフォリオ企業の製品開発に役立てているという意味である。この方法論が「デザイン・スプリント」だ。

デザイン・スプリントは、GVのデザイン・パートナーであるジェイク・ナップ氏から始まった。ナップ氏は、もともとグーグル内のデザイナーとしてGメールなどの開発に関わっていた。時間の使い方に意識的な同氏は、社内でデザイン思考による開発を実験してみようと思い立つ。「デザイン思考」あるいは「デザイン・シンキング」と呼ばれる開発方法は、デザイン会社IDEOやスタンフォード大学のd.スクールで確立されたもの。だが、広く受け入れられているその方法を、グーグル流に変える必要を感じたという。

通常のデザイン思考では、対象のユーザーを観察し、問題を特定し、ブレーンストーミングを行い、プロトタイプを作り、ユーザー・テストを行って、また最初に戻る、という流れを繰り返す。ところが、ナップ氏は次の点で改訂の必要性を感じた。

ひとつは、ブレーンストーミング。ナップ氏は、優れたアイデアはみんなの中からではなく、個人から出てくることが多いと見た。そして、みんなでグレーンストーミングをする代わりに、個々人がアイデアを書き出すという作業に変えた。

また、問題を特定する部分は多数決や全員の合意では、特異なアイデア、大胆なアイデアは敬遠されがちになることにも気づいた。そこで、デザイン・スプリントでは、たったひとつのアイデアを選ぶのではなく、紙に書き出されたアイデアの中から、いいと思うところを参加者みんながシールを付けていき、後に絞り込むという方法を採っている。

さらに、全体の時間が違う。デザイン・スプリントでは何と2〜5日で作業を終えるというスピーディーぶりだ。それも、ナップ氏が「締め切りに迫られた方が集中していいアイデアが出る」ということに気づいたからだという。

このようにしてGV流になったデザイン・スプリントは、次のような6段階の流れで行われる。

まず、ユーザーのニーズやテクノロジーの可能性を「理解する」第1段階。ここでは、関係者の話を聞いたり、競合の製品を比べたりする。第2段階は取り組むアプローチを「定義」する。最終的に何を目指すのかを考えるために、ユーザーが利用に慣れていくユーザー・ジャーニーを想定したり、「使いやすい」「楽しい」といったデザインの方針を考えたりする。

第3段階ではいろいろな方法を「探索する」。ここでは、アイデアを短時間にたくさん出したり、反対にひとつのアイデアに集中して取り組んだりといった方法を採りながら、アイデアを生む段階だ。そこからいいアイデアを「選定する」のが次の第4段階。声に出さずに思考したり、特定の視点を想定して、アイデアの有効性を検討したりする。

第5段階で「プロトタイプを作る」。モックアップ、デモ、ビデオなど、いろいろなかたちがあり得るだろう。そして最後の第6段階が、方法の「立証」だ。ユーザー・テスト、関係者からのフィードバックなどでアイデアの有効性を確認するという作業である。

ナップ氏は、「デザイン・スプリント」の方法論で、GVが関わるスタートアップで数々の開発を支援してきた。GVの同僚との共著で『デザイン・スプリント』という本を出した上、その基本についてはウェブでも公開している。

デザイン思考を自分たちに合った方法に変えていくこと、これもまたデザインのひとつの作業と言える。

Noriko Takiguchiフリージャーナリスト

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