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Apr 12, 2016 06:04 大企業も「デザイン思考」に注目:IBMの例

最近、テクノロジー関係者の間で注目のことばは「デザイン思考」である。
そんなことを読むと、デザイナーにとっては古い話題に聞こえるかもしれない。デザイン業界では、デザイン思考の考え方がかなり以前から知られていたからだ。

だが、現在のデザイン思考は当時デザイナーらが顧客のためにやっていたものとは少々異なったものになっている。それを象徴するのが、IBMが全社規模でデザイン思考を取り入れ始めたという事実だろう。
IBMはデザイン中心的な企業になるために、社内に大規模なデザイン組織を作ることを決定し、それに1億ドルの予算を割り当てている。2013年末にはデザイン・スタジオをテキサス州に作り、全社で1000人ものデザイナーを新たに採用することにした。
もちろんIBMはこれまでもハードウェア製品のデザインでは有名だ。また、すっきりしたサイトをデザインするということでも、デザインに意識的な企業というイメージはすでにあった。
だが、今回の転換は古いエンタープライズ・ビジネスをクラウド、モバイル、ソーシャル・メディア、AI(人工知能)、セキュリティーといった今日的なものに移行させ、こうした分野での成長を加速化するためにどうしてもデザイン思考が必要だとみなした結果だという。

 

これら分野での技術の発展や市場の変化は非常に速い。的確な製品やサービスを提供するために、顧客が必要とするものを身を寄せて感じ取り、プロトタイプを何度も作り直してテストするという、デザイン思考の方法論がその核になるというわけだ。同社では、デザイン思考のアプローチを行き渡らせるために、上はCEOから始まって上級レベルの重役、製品部門のマネージャーらまで訓練を受けたという。

IBMのデザイン思考は、顧客企業向けと同社のサービス開発の両方で使われている。
顧客向けでは、たとえばビデオゲームやエレクトロニクス製品の小売チェーンの店員のために、タブレット用の接客ソフトを開発した。その中では、客がこれまでどんなゲームをダウンロードしたか、どんな製品を買ったかといったことから、顧客データに基づいて、クーポンを提供したり下取りを提案したりができるようになっている。同社のサービスでは、クラウド・アプリケーション用の開発プラットフォームのブルーミックスを、この手法で1年という短期間で作り上げた。
IBMが採用するデザイン思考は、基本的にはユーザーへの共鳴、課題の特定、思索、そしてプロトタイプによるテストを繰り返すループであるという点は変わらないが、多くの拠点に散らばった大人数のチームのためのものとして独自の改良も加えられている。たとえば、多領域、多分野の専門家からなるチームを構成して複雑な問題に取り組む際に役に立つ3つの「キー」も考案している。

キーのひとつは「ヒル(丘)」で、これはデザインに留まらず、顧客やユーザーに感じられる具体的な結果に対して共通意識を持つことを意味する。2つめのキーは「プレイバック」で、これはデザイン思考の作業を共にしていない関係者も含めて、プロジェクトの進行を確認し合う機会のこと。3つめのキーは「ユーザーをスポンサーすること」で、これは実際のユーザーを招いてデザイン思考に参加してもらい、彼らにも観察する、思索する、プロトタイプを作るといったことをやってもらうことだ。そうして、彼らの目からデザイン思考を検証するためである。

IBMは、このデザイン思考のコンセプトをウェブサイトでも公開しており、そこで同社のきめ細かなアプローチも感じられる。たとえば、上記のユーザーをスポンサーして招いた場合、その人を所属の会社名で捉えるのではなく、あくまでもその会社で特定の仕事を行う個人として捉えることが重要だという注意書きまで加えている。デザイン思考では、抽象的な企業ではなく、生きた人間の生の経験こそが目を向けるべき対象だからだ。

そもそも、こうした方法論を公開していること自体に、IBMの変貌ぶりを感じないだろうか。「もはやビジネス戦略とユーザー・エクスペリエンスのデザインの間には、はっきりし区別がない」と、あるIBMの重役が語っているが、まさにデザイン思考はこちらと相手を同調させる方法でもあるのだ。

Noriko Takiguchiフリージャーナリスト

【タグ】 デザイン思考,

Apr 12, 2016 05:10 How can design be better integrated into your organization?

The impact of design is growing

The role of design and design thinking in business has undergone rapid growth in the past five years. More and more businesses have realized the value that design can bring and they are finding various ways to increase the role of design and the number of designers in their organizations. Gjoko Muratovski (2015) has recently published an excellent case study of this phenomenon in the new open access journal called She Ji: The Journal of Design, Economics, and Innovation."She Ji is a peer-reviewed, transdisciplinary design journal with a focus on economics and innovation, design process and design thinking"(http://www.journals.elsevier.com/she-ji-the-journal-of-design-economics-and-innovation/).

Muratovski identifies four ways in which the role of design is changing and impacting an organization's ability to drive change: 1) through design-led business approaches, 2) through the growth of corporate in-house design teams, 3) through the creation of new types of businesses and start-ups and 4) through social innovation via global organizations and foundations. In this short paper I will discuss design-led business approaches and the growth of corporate in-house design teams.

 

The design-led business approach

A design-led business usually has a designer on the executive team. Apple is probably the best known example.  This takes a special kind of designer, one who knows how to design but also knows how to speak in the language of business.  So one way to better integrate design into the entire organization is to promote a designer to the executive board of the organization. This move is likely to lead to growth and integration of the internal design team since the application of design thinking will be promoted broadly by that individual. A recent article posted to the website www.fastcodesign.com describes the role of the Chief Design Officer (CDO)  as one of the "most important design jobs of the future."  Having a CDO will enable the organization to work toward ensuring that all components of the business are designed in a strategic and holistic manner.  However, adding a designer to the executive board may not be possible for many organizations.

 

Approaches for growing the corporate in-house design team

Growing the in-house design team has recently become a strong trend, especially in the US (Muratovski, 2015). There are several ways this is happening. Some organizations who did not previously have in-house design have integrated this capability internally by purchasing small to medium-sized design consultancies.  Others have grown the size of their current in-house capabilities by purchasing and integrating design consultancies. And still other organizations have added to their in-house capabilities by hiring a design leader who brings many years of previous experience.

There are two approaches for how internal design teams can operate within an organization. One approach is to see the design team members as the people responsible for all the design and the design thinking within the organization. A more radical approach for how internal design teams can operate within an organization is to consider everyone in the organization to be a design thinker. This approach can entail a very broad re-education of people in the organization. In this situation those people with expertise in design will expand their roles into being trainers and facilitators of creative and design thinking throughout the organzation. IBM, for example, is undertaking this more radical approach and is in the process of hiring 1000 professional designers over the next few years and providing design thinking training to much of its management work force (Lohr, 2105).

 

Other approaches for better integrating design into your organization

What if your organization does not have the ability to act upon the strategies described above? What are some tactical approaches to achieving better integration of the design team into the entire organization? One approach is for members of the in-house design team to educate the management team about the value of design thinking. The idea is not to turn them into design thinkers, but to have them begin to realize what desgin thinking can bring to the organization. Another approach is for members of the design team to push to become involved in a wider variety of company initiatives than they are normally involved in. Perhaps they can be included much earlier in the design process and work on identifying problems to solve instead of simply being seen as the problem solvers. Getting involved on a wide range of internal projects is a good way to get started in integrating design within the organization. Starting small and seeding the spread of design thinking within an organization will also bring visibility to the design team.

 

References

Lohr, S. (2015) IBM's design-centered strategy to set free the squares. The New York Times, November 15, 2015.

Muratovski G. (2015) Paradigm shift: The new role of design in business and society, She Ji: The Journal of Design, Economics, and Innovation, doi: 10.1016/ j.sheji.2015.11.002.

The most important design jobs of the future: Designers at Google, Microsoft, Autodesk, IDEO, Artefact, Teague, Lunar, Huge, New Deal and Fuseproject predict 18 new design jobs.http://www.fastcodesign.com/3054433/design-moves/the-most-important-design-jobs-of-the-future

Liz SandersMakeTools 代表

Apr 12, 2016 05:07 慶応大学経済学部 武山政直教授と語る「サービスデザインでマーケティングはどう変わるか?」

こんにちは、mctの下野です。

4月8日に開催したConvivial Salon Vol.2についてご紹介します。

Convivial Salonはmctの新たな活動として2016年から開催しているイベントの1つで、さまざまな業種、職種で働く人々が、その垣根を越えて集い、対話し、楽しみながら学び合おうという趣旨の共創型セミナーです。

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2回目は「サービスデザインでマーケティングはどう変わるか?」というテーマで、慶応大学経済学部の武山政直教授をゲストスピーカーにお招きし、サービスデザインについて学びました。ポイントは「イノベーションには、サービス発想による事業の捉え直し(リフレーミング)が伴う」。例えば、スーパーマーケットが顧客のゴールを「食材を得る」ことだと定義する限り、マーケティング活動は食材の販売に終始することになります。しかし、食材を得て顧客は何がしたいのか、顧客のゴールを販売の先にある「食事を支度する」「健康な食生活を送る」まで広げて捉え直すことができれば、「食事の支度の負担の軽減」「健康な食生活の支援」といったよりインパクトの大きいマーケティング活動を展開することが可能になります。レクチャーを通して、業界の枠の中のマーケティング競争に留まるのではなく、顧客のゴールの次元を上げて事業を捉え直すことでマーケティング変革の方向性が見えてくる、という重要なヒントをいただきました。

また、今後の展望として「IoTの普及によって市場領域を横断するようなビジネスが増えていく。これはサービスデザインによって新しい市場を生み出すチャンスでもあり、脅威でもある。」といったお話が印象的でした。自社の製品・サービスを「作って、売る」マーケティングから、業界の枠組みを超えて顧客価値を「共に創り出す」マーケティングにいかにシフトするか。そのためのマインドセットや技術を獲得するうえで、サービスデザインはマーケターにとってますます重要になってくるのだと思います。

参加者の皆さんからは、サービスデザインを推進していくための組織デザインや、リフレーミングのコツについて質問をいただきました。自部門の範囲でしか新規事業を考えられなかったり、組織を超えて取り組むことが難しかったり、現状の組織には、サービスデザインを取り組むうえでのさまざまなハードルがあるようです。しかし、後半のワールドカフェでは一転、いろんな業種の方々がチームを組んで、企業の枠を超えて活発なアイデア交換が行われました。参加者の皆さんも課題に取り組みながら、そういったハードルをクリアしていく日もそう遠くないのでは、とお感じになったのではないでしょうか。我々も、強い気持ちを持った皆さんにたくさん参加していただいたことを感謝すると同時に、そんな皆さんによるマーケティング変革の取り組みを少しでも応援できればと思った次第です。

【配布資料ダウンロードはこちら】
https://www.daishinsha.co.jp/mctinc/download/index.html


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Convivial Salonでは今後も経営やマーケティング、デザインといった様々な分野のテーマを取り上げながら定期的に開催していく予定です。

 

○ビジネステーマについて熱く議論したい人

○自社の課題解決の答えを社外に求める人

○お酒を酌み交わしながら気軽に交流したい人

○終業後の時間を有意義に使いたいという人

○学習や成長の機会を求める人

 

そういった方々のご参加をお待ちしております。ぜひ今後もご期待ください。

Fumihiro Shimono株式会社mct ストラテジスト

【タグ】 Convivial salon,

Apr 12, 2016 05:06 デザインを組織にうまく取り入れる方法とは?

強まるデザインの影響

企業におけるデザインとデザイン思考の役割が過去5年間で急速に拡がってきています。デザインのもたらす価値を認識し、組織内におけるデザインの役割とデザイナーの数をさまざまな方法で拡大している企業が増えてきているのです。Gjoko Muratovski2015)は最近、この現象に関する優れたケーススタディをオープンアクセス形式の新ジャーナル「She Ji : The Journal of Design, Economics, and Innovation」に発表しました。「She Ji は、エコノミクス、イノベーション、デザインプロセスそしてデザイン思考を対象とする、ピアレビュー済みの学際的なデザインジャーナルです。」(http://www.journals.elsevier.com/she-ji-the-journal-of-design-economics-and-innovation/)。

 

uratovskiは、デザインによって組織の変革能力に影響を与え変化を起こす方法を4つ定義しています。

1) デザイン主導型のビジネスアプローチ

2) 企業内のデザインチーム拡充

3) 新しいタイプの企業や新規事業の立ち上げ

4) グローバルな組織や財団法人を介した社会イノベーション

今回の記事では、1) デザイン主導型のビジネスアプローチと、2) 企業内デザインチームの拡充について論じたいと思います。

 

1) デザイン主導型のビジネスアプローチ

デザイン主導型の企業では通常、経営陣にデザイナーが参加しています。最もよく知られている例はApple社です。経営陣に参加しているのは、デザインの方法を知っていると同時にビジネスにも精通しているという、ある種特殊なデザイナーです。つまり、デザインを組織全体に組み込むひとつのアプローチとして、デザイナーを昇格させ組織の経営陣に加えるのです。この動きは、企業内デザインチームの拡充と統合につながります。それは経営陣に加わったデザイナーによってデザイン思考の活用が広く推進されることになるからです。Web サイト:www.fastcodesign.comに最近投稿された記事には、「将来最も重要になるデザイン職」のひとつとして、最高デザイン責任者(CDO: Chief Design Officer)が挙げられています。CDOを置くことで、企業はビジネスにおけるすべてのコンポーネントを戦略的かつ包括的にデザインしながら事業展開していけます。とはいえ、多くの企業にとってデザイナーを経営陣に加えることは難しいことかもしれません。

 

2) 企業内デザインチーム拡充のアプローチ

最近、企業内デザインチームの拡充が強いトレンドになっています。特にアメリカでその動きが目立ちます(Muratovski, 2015)。その方法はさまざまで、今まで企業内デザインチームが存在していなかった企業の一部は、中小規模のデザインコンサルタント会社を買収してその機能を取り入れています。デザインコンサルタント会社を買収・統合して現在の企業内デザインチームの規模を拡大している企業もあります。さらに別の企業では経験豊富なデザインリーダーを雇用して既存の企業内デザインチームを強化している所もあります。

企業内デザインチームを組織内で機能させるためのアプローチは2つあります。ひとつは、デザインチームのメンバーに組織内のデザインとデザイン思考のすべてを任せるアプローチです。一方で、組織内の「全員」をデザイン思考の実践者(Design Thinker)と見なす急進的なアプローチもあります。このアプローチを取ると組織の人員の大規模な再教育が必要になります。その場合、デザインの専門知識を持つ人材はトレーナーとして、またクリエイティブなデザイン思考のファシリテーターとして、組織内における役割を拡げることになります。例えば、IBM社ではさらに急進的なアプローチを採用し、今後数年間で1,000人の専門デザイナーを採用して、管理職の大多数にデザイン思考トレーニングを施す計画を立てています(Lohr, 2015※1

※1 詳しい内容は瀧口範子さんの記事をご参照ください。

 

デザインを組織に取り入れるための別のアプローチ

それでは、上記のような戦略を取る余裕のない組織はどうすればいいでしょうか?デザインチームを組織全体に取り入れる戦術的アプローチはないのでしょうか?その答えとして、企業内デザインチームのメンバーにデザイン思考の価値について経営陣を教育してもらう、というアプローチがあります。このアイデアが、経営陣をデザイン思考の実践者に変えてくれるわけではありませんが、デザイン思考が組織にもたらすメリットに気付いてもらうことはできます。企業内デザインチームのメンバーを今までよりも広い範囲のさまざまな企業の取り組みに参加させる、という別のアプローチもあります。メンバーを早い段階からデザインプロセスに参加させることで、彼らは単に問題を解決するだけでなく、解決すべき問題を見つけ出すという役割を果たすことでしょう。デザイナーを幅広い企業内プロジェクトに参加させることができれば、デザインを組織にスムーズに取り入れることができます。小さな所から始めて組織内にデザイン思考を拡げるための種をまくことが、デザインチームの認知度向上にもつながります。

 

 

参照資料

Lohr, S. (2015) IBM's design-centered strategy to set free the squares.The New York Times, November 15, 2015.

Muratovski G. (2015) Paradigm shift:The new role of design in business and society, She Ji:The Journal of Design, Economics, and Innovation, doi:10.1016/ j.sheji.2015.11.002.

The most important design jobs of the future:Designers at Google, Microsoft, Autodesk, IDEO, Artefact, Teague, Lunar, Huge, New Deal and Fuseproject predict 18 new design jobs.http://www.fastcodesign.com/3054433/design-moves/the-most-important-design-jobs-of-the-future

Liz SandersMakeTools 代表

Apr 11, 2016 06:28 より良いカスタマージャーニーマップを作るためのコツ

こんにちは、mctの池田です。

 

先日、同僚のエリックから面白いクイズを出してもらいました。

 

ある状況で、ゾンビの大群が近づいてきました。

それに気がついた誰かが、隣にいる人に向かって声をかけます。

下記のセリフから、あなたはそれぞれどんな状況を想像しますか。

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zonbie-thumb-400x198-680.jpg

(1)「後ろを向いちゃダメ! 大丈夫、手をつないでついてきて!」

(2)「お取り込み中申し訳ありません。ゾンビが後ろから迫ってきております。恐れ入りますが早歩きでお願い致します」

(3)「北北西の方角から、死んでいないホモサピエンスが2.5SPSでこちらに向かってきています」

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(1)は幼い子供の親が、子供を怖がらせずに逃げるため

(2)は秘書が社長に対して、電話を中断させて危険を知らせるため

(3)は科学者が、博士に調査状況を正確に伝えるため

...が本当に正解かどうかはさておき、大事なことは、「コミュニケーションにはいくつかの大切な基本要素がある」ということのようです。

 

・目的(誰に、どんな行動をしてもらいたいか):「不安にさせない」「注意をひく」「正確な情報を伝える」

・内容(伝えたい内容は何か):「ゾンビの大群が近づいてきている」

・表現(相手の立場・能力、状況に合っているか):理解できる、共感できる、活き活きしている

 

誰かとコミュニケーションをとり、何かを伝えたいという時には、これらの要素を意識することが必要です。カスタマージャーニーマップを作る時にも、同じことが言えます。

 

・目的:マップを使って、誰に、どんな行動をしてもらいたい(どんな結果をもたらしたい)?

・内容:そのために、マップにはどんな情報が必要?

・表現:そのマップを見る相手に、直感的にわかってもらえる?

 

これらのポイントを踏まえて、もう少し詳しく、より良いカスタマージャーニーマップを作るコツをお伝えしたいと思います。

 

作る前に、どんな目的で使うためのマップかを定義する

「とにかく顧客の体験を可視化しよう」と、勢いよくマップ作りに取り組むその前に、まず、「具体的にどんな目的で使うため」のマップか、明確に定義しましょう。

 

「どうすれば、不動産店を訪れた新規客に、安心して相談しやすいと思ってもらえるだろうか」

「どうすれば、患者がだんだん億劫になる毎日の服薬を、ポジティブな行動に変えられるだろうか」

「どうすれば、通販サービスに加入して1年後の、飽き始めている顧客に、もう一度ワクワクできる体験を提供できるだろうか」

 

目的が明確になれば、自ずとカスタマージャーニーマップのタイムスパンも定めやすくなります。ある特定のタッチポイントにフォーカスを当ててそこでの詳細な体験を理解したいのか、長期的な視点で全体像を把握したいのか。解決したい問題に沿って適切な範囲設定をすることで、「誰に、どのような形で活用してもらうためのマップか」というメッセージもはっきりしてきます。

 

カスタマージャーニーマップの主人公を明確にする

「カスタマージャーニーマップを作成したい」というご依頼を受ける際、そもそも自社のターゲット像が明確になっていないことがよくあります。ターゲット像がはっきりしていないと、マップで描き出される内容は表層的なレベルに留まり、それを見ても理解、共感できないという問題が起こります。

そうならないために、主人公となるペルソナとセットにしてカスタマージャーニーマップを作ることをお勧めします。カスタマージャーニーマップに描ききれない、ペルソナの人物像、背景、性格、思考の癖はペルソナシートで理解した上で、その主人公が実際に、時系列でどんなタッチポイントでどんな体験をしているかをマップで明らかにします。そうすることで、ひとつひとつの出来事が顧客にとってどのような意味や感情をもたらしているのかがより深く理解できるようになります。

 

顧客の視点から世界を捉える

カスタマージャーニーマップのステップが、下記のように設定されているとしたらどうでしょうか。

 

 入店→席にご案内→注文をとる→料理を出す→会計→出店

 

業務の流れは明確ですが、カスタマージャーニーマップは業務設計書とは異なります。

この一連の流れを、顧客の視点から捉え直してみると、例えば下記のようなステップになります。

 

 店の外観を見て近づく→店の前で混み具合を確認する→入店する→席に案内される→上着と荷物を隣の席に置く→壁のメニューを見上げる→注文する→眼鏡を外す→...

 

カスタマージャーニーマップを作る時は、各タッチポイントで顧客がどんなメッセージを受け取り、どんな気分になっているのか、製品・サービス提供者の立場から離れ、顧客の目線になって体験を捉え直すことが大切です。一連の流れを顧客の目で見てみると、これまでは当たり前で見過ごしてきたことが、実は顧客にとって「なんかちょっとやだな」と感じることの連続だった...といったことにも気づけるようになります。

さらに、顧客の体験を捉えるためには、「結果」だけではなく、「期待」をマップの中に記載することも効果的です。人は何かを体験する前には、意識せずとも何かしらの期待や想定を抱いています。「売り込みされるんじゃないだろうか」「この病院ならちゃんと診てくれるはず」「このお店ならゆっくり過ごせそう」...。こうした期待を捉えることで、実際の体験が、その期待を上回る素晴らしい体験だったのか、想定内のことか、期待外れのがっかりする体験だったのかが明確になります。さらに、そのギャップの大きさから、体験全体に影響を与えるような重大なペインポイント(あるいは満足度を上げているポイント)がどこにあるのかが把握しやすくなります。

 

顧客体験に影響を与えるバックステージにも目を向ける

本当に顧客体験をよくしようとすれば、顧客と直接接するフロントステージだけではなく、それを支えるバックステージにも目を向ける必要があります。

例えば、不動産店で家を紹介してくれた担当者は自分に対してとても親身になり、決断を熱く後押ししてくれたのに、後日、経理部門から何の気持ちも感じられない事務的な振込用紙が1枚送られてきたら、どう思うでしょうか。顧客から見て一貫性のない体験は、顧客に不安、不快、不信感といったマイナスの感情を与えてしまいます。顧客との関係が直接ない部門であっても、顧客の体験のどこかに影響を与えています。フロントステージだけではなく、バックステージの動きもカスタマージャーニーマップに加えてみてください。そうすることで顧客体験を良くするための全体像が見えてきます。

 

いかがでしたでしょうか。顧客の目線で体験を捉える練習としては、自分自身も"ひとりの顧客"として、世の中の優れた製品・サービスを積極的に体験してみることをお勧めします。だいぶ暖かくなって、活動しやすい季節になってきましたので、ぜひいつもよりちょっとだけ意識的になって、いろいろな体験にトライしてみてください!

Eiko Ikeda株式会社mct エクスペリエンスデザイナー

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