BLOG

Jul 10, 2015 03:00 共創(Co-creation):1992年以降、私たちはどこまで進歩したか?

私は 1992年に『収束的視点:1990年代のための製品開発リサーチ(Converging Perspectives: Product Development Research for the 1990's)』と題した論文を書き、それが「Design Management Journal」に掲載されました。当時、新製品の失敗率が80パーセント前後というかなり高い時期にあり、私は、この論文でデザインリサーチの現状を説明するよう求められました。そこで私は現状を説明する代わりに、1990年代以降に向けて、どのようにデザインに取り組めるかを提案することにしました。それはたんなる予測ではなく、将来に向けた期待を述べることでした。私がそうした期待を述べてから、これまでに何か起こったか、振り返ってみる時がやってきました。

 

役立つ(Useful)、使える(Usable)、望ましい(Desirable)
先の論文における重要なポイントは、いかなる製品も「役立つ」「使用できる」「望ましい」を同時に兼ね備えていなければならない、ということでした。「役立つ製品とは、消費者が必要としていて、使うことになる製品。使える製品とは、 消費者がすぐに使用できるか、またはすぐに使い方を理解できる製品。そして、望ましい製品とは消費者が使いたくなる製品である」(1992年)

「役立つ」「使える」「望ましい」というモットーは、これまでデザインに関わる多くの人々に取り上げられてきました。そして今日、このモットーは、人間中心の製品とサービスをデザインする上で 第一の目的としてしばしば使用されています。
このモットーが特にユーザーエクスペリエンス(UX)デザイナーの中で良く知られているのは、 ピーター・モービル(Peter Morville)が2004年にこのモットーを拡大(図1)したためです。モービルの「ユーザーエクスペリエンスのハニカム(蜂の巣)」は、成功する製品とサービスの中核的な特性に、「みつけられる(Findable)」、「信頼できる(Credible」)、「アクセスできる(Accessible)」という目的を追加しています。

figure1.png

図 1: ユーザーエクスペリエンスのハニカム構造 (http://semanticstudios.com/user_experience_design/)

より最近では、このモデルはビジネスの世界でも使用されるようになりました。その代表例が、「カスタマーエクスペリエンス・ピラミッド(2012年)」で、Forrester Researchが発行した、Harley Manningと Kerry Bodineの共著『Outside In: The Power of Putting Customers at the Center of Your Business(顧客をあなたのビジネスの中心に置くことの強み)』という本で紹介されています。そこでは、主要な特性は同じですが、異なる用語が使われています。「役立つ」を「ニーズを満たしている(Meets needs)」に、「使える」を 「簡単(Easy)」に、「望ましい」を「楽しめる(Enjoyable)」としているのです。

figure2.png

図 2: カスタマーエクスペリエンス・ピラミッド(http://outsidein.forrester.com/resources.html

私たちは今、「役立つ」「使える」「望ましい」を同時に兼ね備えた製品やサービスをデザインしているでしょうか? 答えは「ノー」です。私たちは、「使用できること(Usability)」と「望ましさ(Desirability)」について、どのように対処すべきかわかっています。けれども私たちはいまも、どうすれば将来の製品を「役立つ」ものにできるか、というレベルにとどまっているのです。

 

では、1992年以降、他に何か変わったのでしょうか? 変化のために何を取り組んできたでしょうか?


デザインリサーチはデザインプロセス全体を通して行われている
「私は新しいアプローチを提案する。つまり、消費者(ユーザー)のニーズの発見からそれらのニーズに対応した製品の開発まで、そして最終的には、市場および究極的には消費者とエンドユーザーへ望ましい製品を提供するための開発プロセス全体にリサーチを取り入れたアプローチだ」(1992年)

今日、デザインリサーチはデザインプロセス全体に取り入れられています。ご存じの通り、何をデザインするかを決める際には「生成的な(Generative)デザインリサーチ」を初期段階で取り入れます。また、デザインプロセスの後半には「評価的な(Evaluative)デザインリサーチ」を取り入れて、どのようにデザインすれば ベストかを判断しています。

 

収束的視点がデザインリサーチに取り入れられている
「収束的視点(Converging perspectives)とは、製品開発の課題に取り組むために2つ以上の調査方法を使用することを指す」(1992年)
今日、私たちは、製品とサービスのデザイン開発のために、多くの異なった方法を使用しています。実際、非常に多くのデザインリサーチ手法が多数の書籍で紹介されていますし、そこでは、各手法がわかりやすくリスト化され、説明されています。今日の課題は、デザインリサーチを取り入れるかどうかではなく、各デザインプロセスで「どの最適な方法を選ぶか」にシフトしたということです。

 

デザイナー以外の人がデザインプロセスに参加する
「参加の目的は、デザインプロセスに消費者を取り込み、関与させることである。それは、製品開発プロセスの中で、受け身の情報提供者から積極的な参加者へと、リサーチにおける消費者の役割を変えていく」(1992年)
今日、人々は「製品とサービス両方のデザインと開発」への積極的な参加者です。そこには「共創(Co-creation)」が定着しています。インターネットとソーシャルネットワークによって、人々は社会的な機会が拡大されただけでなく、以前には考えられもしなかった方法でつながっています。人々は、製品やサービスを購入する前に、それらを使用した他の消費者の体験を聞くことができます。人々は、自分用に製品やサービスをデザインすることさえできます。マーケティングと広告宣伝は参加型の発想を取り入れ、変化しています。そして、一般の人々も参加型デザインの活用方法を知っています。

 

デザイナーの新しい役割の誕生
「参加型デザインは、デザイナーに、デザインプロセスの「実現者(Enabler)」としての新しい役割を課している」(1992年)
他の多くの役割に加え、今日のデザイナーは「デザインプロセスのファシリテーター」としての役割を果たしています。彼らは、社会変革のカタリスト(触媒の働きをする人)に、共同的体験のファシリテーターに、そしてまた起業家精神にあふれた制作者になりつつあります。

 

私たちはここからどこに向かうのか?
私たちは1992年以降、大きな進歩を遂げてきました。すべてのステークホルダーと手を携えた共創(Co-creation)、そして、デザインと開発プロセス全体にわたる共創が今日の現実です。20年後はどのようになっているのでしょうか? おそらく私たちは、「使える」「望ましい」そして「役立つ」製品とサービスをデザインしているでしょう。

 

リズ・サンダース / MakeTools

http://www.maketools.com/

Liz SandersMakeTools 代表

Search検索

Categoryカテゴリー

過去のExperience Magazine

  • 米国マーケティング最新事情 / 瀧口範子
  • デザインテクノロジーの最前線 / 桐山孝司
  • 「本能」から人間を読み解く / 佐藤武史
  • 注目のクリエーターズボイス